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「イツキくん、イツキくん、袖をまくってみてくれませんか」
「はいはい」
イツキくんが照れたように目を伏せて、ワイシャツの袖を、肘のところまでまくりあげてくれた。
くしゅっとめくれあがった袖と腕の感じがたまらない。
「イツキくん、イツキくん、ここまできたら靴も履いてみませんか?」
「あー……はいはい」
玄関へ移動する。
「どの靴にしますか?」
わたしは一瞬で靴を選択し、ぴっと指し示した。
選んだのは、濃い茶色の、先の尖り過ぎないポインテッドトゥの革靴だ。
靴先が丸みを帯びたプレーントゥもいい。ただ、靴先の尖り過ぎないポインテッドトゥの在能力は意外と凄いのだ。スーツや体形との組み合わせによっては、びっくりするくらい、男性の垢ぬけた姿を引き出してくれる。
イツキくんに靴ベラを渡す。イツキくんが革靴を履く。
もぞもぞした笑顔で尋ねられた。
「これでよろしいですか?」
わたしはとっても感極まった。
にこにこしながら、イツキくんの側に近寄っていく。イツキくんとは頭一つぶんくらい、身長差がある。
イツキくんを見上げて、ありがとう、と言おうとした瞬間だった。
あることに気がついた。気がついて、しまった。
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