2 装☆着

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愕然と佇む。 反応のないわたしの表情を伺うように、イツキくんが再度口をひらいた。 「あのー、小春さん? ええと、気は済みました? ぼく、実はお腹が空いてきました。因みに、今日のお昼ご飯って」 「イツキくん……とっても、とっても、有難いです。スーツ姿、すごく、感謝しています。ですが、その」 イツキくんに何か言われる前に、わたしは素早く言葉を紡いだ。 「ちょっとくたびれてみませんか?」 「さっきから立て続けに、あなたは何を言ってるんです?」 わたしはぶんぶんと首を横に振った。 イツキくんのスーツ姿は素晴らしい。でも、一番欲しいものが欠けていた。辛い。辛すぎる。仏作って魂入れず、だ。 「疲労感……」 「は?」 わたしはぱりっとしたイツキくんも好きだ。 でも、遅くに帰ってきて、くたくたなイツキくんも大好きで。 残業がぁ、とか、後輩がぁ、とか、後輩に差し戻したはずの仕事が謎の経路で差し戻ってきたぁ、とか。 新人研修の愚痴をあくまで穏やかに、それはもう理路整然と、淡々とこぼす、かつての日々が、あの日常が、大好きだった。 なんて言えば伝わるだろう。 「あなたがくっつけて帰ってくる外の匂いを、ストレスのかかった汗の匂いを、わたしはとっても愛していたようです。あと一息で完璧。山の頂上はすぐそこ! イツキくん、その姿で近所の公園まで走って帰ってきてくれませんか!?」 「お断りします!」 「なんでっ!?」 「ぼく、今、お昼休憩中なんですよ! 外を走るより、お昼が食べたいです!」 仕方がないので、わたしはお昼ご飯を作ることにした。
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