自殺配信

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自殺配信

「よし、始まったかな?」 辺り一面が真っ暗闇に染まり、風に揺れる木々の音がより一層大きく聞こえる中画面の向こうに向けて一人の男が呟いた。 彼は今動画投稿サイトにて生配信を行っている。タイトル名は至ってシンプル、”自殺配信”だ。 彼の後方には暗くてよく見えないがあまりにも高すぎる谷間がおおきな口を開けて当たりを静寂に包み込んでいる。 生配信のコメント欄には、 『まじで?』 『冗談でしょ。』 『この手の釣りだけはホントにダメ。』 等とまるで信じ切っていない人々の声が溢れかえっていた。 中には、 『早く飛べよ。』 『〇ーね!〇ーね!』 等心無いコメントも混じっている。企画ものも多い彼だからか、冗談だと思っている人もいるようだ。冷静に考えればありえない。 彼の名は、福山亮、今をときめく人気動画配信者だ。眉目秀麗で欠点の一切ない福山は甘いルックスと共にあっという間にトップへ登り詰めた。チャンネル登録者は60万人越え、グループでも活動しており、そちらは300万人を超えている、まさに売れっ子配信者。 そんな彼が突然始めた配信に視聴者が驚きを隠せないのも無理はないだろう。 「ねぇ、コメント来てる?」 先程まで暗闇だった画面に、突然あかるいライトを手にぴょこっと映った男を見て動画配信を見てる人々は余計にどよめく。 『嘘って言って』 『嘘だよね?』 『こんな冗談良くない』 『今なら間に合うからお願いやめて』 等と徐々に事の重大さに気付き始めたのかコメント欄の内容も変わり始めた。 『隆一、突然入ってこないでよ~。』 福山が突然入ってきた彼の名を呼んだ。そう彼は、今をときめく人気アイドル丸岡隆一。 少し長めな茶髪のふわふわパーマを揺らし丸岡は画面へ向かい手を振る。 人気動画配信者と人気アイドルの組み合わせ、さらに内容が自殺配信と言うだけあり閲覧数はどんどん伸びていく。 閲覧数が上がると共に増え始めるコメント。 『さっさと飛べよ。』 『勝手に〇ね』 『かまちょかようざ』 『これ釣りなら俺が〇してやるよ』 なぜ簡単に書けるのだろうか。と怒鳴りつけたくなる気持ちを押さえつけ、福山は表情筋を作る。そして、にやりと笑った。 「さあ、キャストは僕らだけではありません。今宵6人の命が消える瞬間をお見せします。」 丸岡の照らすライトのせいで余計に妖しく、その言葉が一部の視聴者たちに何よりも重く響いた気がした。
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