愛野諭佳の場合

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愛野諭佳の場合

愛野諭佳(あいのゆか)、40歳。 個人でファッションデザイナーやっているのだが超売れっ子である。 諭佳のデザインする服もバッグもアクセサリーや靴も爆発的な超ヒット商品となるので、各メーカーからはオファーがいつもいっぱいである。 爆発的な超ヒットを呼ぶものだからドル箱ブランド💰いや、日本らしくアレンジして諭吉ブランドと呼ばれている。 もう40歳というのに独身で、しかもメチャ美人なので、仕事関係者の中には諭佳のことを密かに狙っている人も少なくはない。 でも、いつもキリリと凛々しくて、メガネがキラっと光って更に優秀さを醸し出している諭佳にはどことなく近づき難い高嶺の花のような雰囲気があって、結局仕事関係のままで終わってしまっている。 縁談話とかももちろんあったりするが、諭佳は全部断ってきた。 仕事に集中したいからというのが表向きの理由だが、本当の理由は推し事に集中したいからである。 実は諭佳は隠れオタである。推しているのはテレビの特撮ヒーロー番組に出演しているイケメン俳優やイベントやライブハウスを中心に活動している所謂地下アイドルであって、テレビを賑わせたりするジャニーズのようなメジャーなアイドルには目もくれたことはない。 休日等は推しのアイドルのライブやイベントに行くことが多くて、専らイチオシなのが地元の県を中心に活動している各メンバーが武将や侍に扮して活動しているサムライキッズという和テイストなロックを歌って踊るチームである。 一応箱推しではあるのだが、特に織田信長担当でチームカラーは赤のカツキである。 サムライキッズ、特にカツキ以上に愛せる男性なんてこの世に存在しないから縁談なんか持ち込まれたら迷惑以外の何者でもない。 「もう、先生。せっかくのお食事会のお誘いなのに何で断っちゃうんですか。もったいない」とアシスタントのユキが少し膨れ面をする。 諭佳のデザインがまたまた大ヒットしたお礼にとクライアントからお食事会のお誘いがあったのを断ってしまったことを言っているのだ。まあユキの場合は豪華な食事を食べ損なったガッカリ感も大きいのだが。 「もうちょっとで新しいデザインが閃きそうだから集中したいのよ。ちょっと和テイストを取り入れてみるのもいいかもね。ちょっとひとりで花でも見て心を清めて考えてみるわ」 「流石、仕事の鬼。それくらいじゃないと名作は生まれないのね」 とユキは感心しているが、実は今日はサムライキッズのお花見ライブがあって、勿論それが最優先なのであった。 休日は何をしているのかと訊かれれば諭佳はこう答えるのだが・・。ショッピングセンターで色々と見て回れば何かヒントがあるかも知れないというのは実はライブに行くということで、イベントやテーマパークに行くというのも同様。たまには遠出をして美術館や博物館に行くというのは実はライブのために遠征をするということである。 普段の諭佳の姿は仮の姿で推し事現場での姿が本当の姿だと諭佳は思っている。キラリと光って優秀さを醸し出しているメガネは実は伊達メガネで、本当はショートヘアなのに長い髪のカツラをしていたりもする。 人目につかないようにメガネを外し、カツラを取って、シックな服からカジュアルな服に着替えたら推し事現場へレッツゴー。 まるでアニメや特撮のヒロインみたいな華麗な変身である。 推し事現場やSNSでは諭佳は帰蝶を名乗っている。 勿論織田信長様の正室濃姫のもうひとつの名前から取ったものであり、信長様の妻という意味である。 よく推しのことを「オレの嫁」と言っているオタクがいるが、諭佳の場合は「あたしが嫁」である。 サムライキッズにハマってから諭佳は戦国や江戸を中心に歴史にも詳しくなり、プチ歴女でもある。 帰蝶に変身して現場で熱烈コールをしたりサイリウムを振り回したり、振りコピをしたり、時には曲に合わせて小道具を用意したりと沸いている諭佳はクールビューティーな普段とは全くの別人である。 もし仕事の時の諭佳しか知らずに密かに狙っている男たちがこのことを知ったらショックのあまり卒倒してしまうであろう・・。
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