楽し雨

1/1
前へ
/1ページ
次へ
私が楽しい気持ちのときはいつも雨が降っている。 梅雨に生まれたせいもあるが誕生日はいつも雨。 小五までの遠足も全部雨で、小六のときはどうせ雨だからと思って楽しみにしていなかったらやっぱり晴れた。 素敵な服を買ってもお出かけもできなくて悲しかった。 そんな私を見てお母さんは鮮やか緑色のおしゃれな長ぐつをプレゼントしてくれた。 その長ぐつを履くことが好きで、長ぐつを履いている自分が好きで雨の日が少し好きになった。 長ぐつは私の心を踊らせ雨を強くした。 中学のときのマラソン大会の日に三年連続で緑の長ぐつを履いていくと三年とも雨が降って中止になった。 もし雨が降らなかったら長ぐつで5kmも走らなきゃいけなくてリスキーだったが私には雨が降る確信があった。 中止になって喜ぶ友達を見て私は自慢げに長ぐつで水たまりを鳴らした。 クラスでいばっている女子の 「今度の日曜家族で海に行くんだぁ」 という話を盗み聞きすると、日曜に長ぐつを履いてベランダに仁王立ちしてやった。 案の定雨が降り、次の日の学校ではおとなしかった。 長ぐつと共に成長していったが、大人になるにつれ雨の日が少なくなっていった。 仕事でミスをして上司に怒られ、ブルーな気持ちになっているときも、似つかわしくないぐらい外は晴れていた。 心身共に参って晴れの帰り道を歩いていると駅前のおしゃれなお店の窓から緑のレインコートが見えて足が止まった。 私は引き込まれるようにお店に入り、レインコートを買った。 袋に詰めようとする店員さんに 「あっ、そのまま着ていくんで大丈夫です。」 と言うと、店員さんは首を傾げながら値札を切りそのまま渡してくれた。 レインコートを着て晴れた道を歩くとすれ違う人は不思議そうな顔をした。 次第に雨が降り始め、不思議そうな顔をしていた人たちは鬱陶しそうな顔に変わり、ざまあみろと思った。 すると雨はどんどん強まった。 人通りが減り、一人になると私は雨と踊った。 雨は私の心を潤してくれる。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加