0人が本棚に入れています
本棚に追加
私は、愛の小さな手を引いて歩いていた。愛は、桃色をした
うさぎの人形を大切そうに抱きしめ小さな歩幅で一生懸命に
歩いている。
愛の母親、つまり私の妻が姿を消したのは1年も前だった。
会社で仕事をしていた私のスマホに幼稚園から連絡が入った
のは、雨の降る肌寒い日だった。迎えに来る筈の妻が現れな
い為私に連絡がきたのだ。会社を後にし幼稚園へ急いだ。
幼稚園の建物の軒先にポツンと佇む娘が見えた時の胸の痛みは
一生忘れられない。今と同じ様にうさぎの人形を両手でギュッ
と抱きしめボンヤリと雨雲を見上げていた。私に気付いた娘は
途端に笑みを浮かべ小さく手を振ってきた。これ以上ない愛お
しく思える存在は他に無い。
愛の手から伝わる温もりに生の喜びを感じた。お前がいるから
私は生きていける。
愛、愛をありがとう。
私は、共に生きていく。
この隠し子と。
最初のコメントを投稿しよう!