07 種子

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「進化の目的であり結果である〈思念〉……それが収穫される――」ドロシーは睨むようにマキルを見据える。「収穫された思念は、みんなで力を合わせて宇宙創造シミュレーションの演算をする。56億年かけて。演算が終了すれば〈種子〉に押し込まれて、次の宇宙の原料になる。そうなのね?」  マキルは頷く。微笑みさえして。「わたしたちの思念(おもい)が宇宙を創るのです」声はうっとりしていた。 「死んだ後はニルヴァーナの工場勤務か。ちょっとうんざり。そうよね、毎日楽しく遊ぶだけじゃないよね。物事には見返りというものがある。いい夢を見させてもらう遊園地の料金は、自分で稼げということか」  「心配しなくても、〈演算の仕事〉は意識に上りませんよ。思念のリソースのほとんど――98%は演算に使われますが」 「〈夢〉を見ているのは――〈わたし〉であるのは、思念のたった2%!」 「人間の脳だって、意識的な部分はごく僅かですよ。残りの大部分は他の〈仕事〉をしている。2%は惜しいですが、夢の世界で暮らさないと自我を保てず個々の思念がもちません。生きている我々も時間があれば瞑想しているでしょう。ニルヴァーナの演算の足しに、僅かでもリソースを提供しているのです」 「もう一度、整理させてくれ」デレクは手を動かして自分を納得させるように、ゆっくりと喋った。「進化の目的は〈思念〉という果実を実らせることだった。実った〈思念〉は、収穫され〈仕事〉をするためのものだった。その〈仕事〉とは、宇宙を再度産むための〈種子〉を創ることだった。そして〈思念〉たちは今、自らを凝縮して〈種子〉にするための最適ルートを演算をしている――コンピュータの演算素子のようになって」  マキルは頷く。「わたしたちは神にならなければならない。宇宙を創り、繰り返すために」  二人の地球人(オリジナル)は茫然と惑星子(ほしのこ)夫妻を見た。  究極まで進化して、生きものは神にならなければならない――ここへ来る道でドロシーが口にした言葉だ。いま同じことをマキルが言った。 「神になる……同じことを、わたし、さっき思った。突然」 「大地に根が張るように、あなたがたの意識の根も深く張って、ニルヴァーナと繋がる。ドロシーはとても親和性が高いですね。だから、ニルヴァーナがあなたの意識にオーバーフローするのです。あなたは媒体として選ばれたようだ」 「媒体……」 「イメージで受け取るのは効率がいいでしょう? 言葉のような誤解がない」ポーレが言った。 「ここへ来る途中でわたしが思ったこと――あれはニルヴァーナの思いなのね? おかしいと思った。わたしが神を語るなんて……」 「そうですね。ドロシーは神さまが嫌いだ」  唐突なマキルの言葉に、デレクはドロシーを窺う。 「頭の中を覗けるの?」ドロシーは気色ばんだ。 「そういうわけではありません。ニルヴァーナで、あなたが見た夢の断片を拾った。あなたは、お母さんと──」 「やめて!」マキルの視線を遮るように両手をかざし、彼から身を退いた。「帰るわ」立ち上がってバッグをつかんだ。  デレクはわけがわからずマキルに目をやる。 「地球人(オリジナル)はプライバシーを重んじるのだった。すみません」  マキルは弁解するが、その声を背にドロシーは出て行ってしまった。玄関のドアが音をたてて開閉する。 「また改めて話の続きを聞きに来るよ」デレクはいとまを告げ、ドロシーの後を追った。  外に出ると、少し離れた蜜樹(ハニーツリー)の下に彼女はいた。沈みはじめた太陽に向き合って。
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