07 種子

5/5
前へ
/32ページ
次へ
               *    開拓基地へ戻ったドロシーは指令室へ行き、メインコンピュータを起動した。先ほどマキル夫妻に聞いた話を再度検証するために。  データを漁ってみても、〈ニルヴァーナ〉という語は惑星子(ほしのこ)特有の共有意識形態として説明されているだけで、宇宙の種子(たね)だの、神になるだのという記述はどこにもない。地球向けデータからは除外されている。  ドロシーはマキルの言葉を思い返した。  ――〈思念〉のエネルギーを集めて〈種子〉を創る。ニルヴァーナはそのための演算をする。  思念コンピュータ――脳の畑に育った〈思念〉を演算素子にする。素子の数が欲しいから、惑星子(ほしのこ)を短命にし多産にする。素子を増やせるだけ増やして集積し、〈思念演算チップ〉を量産し、ニルヴァーナの〈頭脳〉を増設し続ける。そうやって演算を加速しても、間に合うかどうかわからない。あと56億7千万年ないから……  誰があんなシステムを創った? 異星人か。それとも、あったか。それとも、宇宙消滅の危機感から、突然湧いて出たか……  ふと、隣りのサブコンピュータに挿されたままのメモリカードが目に入った。  何だろう? サブも起動してみる。  立ち上がったサブのディスプレイにカードのデータが表示された。  ドロシーは嘆息した。ポルノ動画だ。直前のアクセス・アカウントはボブ。  画面上にずらりと並ぶ無数のサムネイルのプレビューで、それぞれのカップルが絡み合って動いている。   地球人(オリジナル)の繁殖行為だ。  異星で目にするそれは、なんて牧歌的だろう。こうして殖え、自分と家族を守るためにヒトは戦ったのだ。知性やら理性やらを得て別格のつもりでいた哺乳類も、繁殖と戦闘のときはケモノに戻る。  惑星子(ほしのこ)はもうすっかり忘れてしまったのだろうか。世代を継ぐために、かつてこのような熱いがあったことを。ケモノであったことを。  ポルノのサムネイル表示を閉じ、サブコンピュータをシャットダウンした。カードは抜いてボブのファイルケースに放り込む。  ニルヴァーナの擬似コンピュータは宇宙誕生シミュレーションを演算しているのに、こっちはポルノ映像再生処理の演算か……のどかなことだ。  あまりのギャップに失笑する。  空気が生臭いのはそのせいだ。デスク下のダストボックスに、丸めたティッシュが積まれていた。  (きたな)いとは思わない。生きものは遺伝子の容器で、世代を繋ぐことは課せられた最優先コマンドなのだから。  ドロシーは服の上から乳房を触ってみた。  この張りのある躰は、オスを引き寄せるためにある――  誘惑に応じなかったデレクの抑制を思った。  絶滅寸前のオスが三匹、メスが一匹。オスに抑制がなければ、わたしは輪姦(まわ)されていたのかもしれない。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加