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「やっぱいろいろ厳しい? 派遣社員だと」
他人の懐具合をたずねるのに、「いろいろ厳しい?」という表現を彼女は好んで使う。
「厳しいねえ。交通費も出ないし、出たとしたって美琴の半分もいかないよ」
「木綿子は才能あるのにね〜、もったいない」
「……はは」
「結婚とかは? ないの?」
「彼氏もいないのにどうやってすんのよ、もう」
テーブル越しに彼女の肩を軽くつつくと、心配顔を作りながらも美琴が満足しているのが手に取るようにわかった。
「イラストの方も、相変わらず?」
さりげなく部屋の隅の作業机に目をやりながら、美琴はなおも探りを入れてくる。
「まあね。さっぱり芽が出ませんね」
「あれっ、もしかして画材とかずいぶん処分した?」
「……気づいちゃった? そろそろ必要ないんだもの、わたしには」
声にできるかぎりの憂いをこめると、美琴はやっぱり同情を表しながらもまた小鼻を膨らませた。
「それでも偉いよ木綿子は、続けてるんだもの。あたしからしたら偉人だよ」
笑ってしまうくらい空疎な言葉を美琴は吐く。
酸っぱくなり始めたインスタントコーヒーをすすりながら、わたしはかぶりを振った。
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