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開眼した特殊能力
「へぇ、面白いこともあるもんだな」
私・宇佐美貫太郎に対し、現代文の教師・三浦剛はそうつぶやいた。私は国公立大学の医学部を目指す浪人生。現役のときにはセンター試験で失敗し、医学部を受けることすら叶わなかった。英語数学理科は満点に近かったのだが、国語と世界史の2科目の出来が壊滅的だったのだ。国公立の医学部はかなりハイレベルな争いになるため、センター試験での大量失点は合格への道のりを遥か遠くへと追いやってしまう。ましてや国語は1問の配点が大きく、10点20点クラスの失点を招きやすいのだ。だから私は現代文のパイオニアである三浦先生にこうして指導を仰いでいる。受験まであと3ヶ月。残された時間は、少ない。
「面白いこと、とは?」
私がそう訊き返すと、三浦先生は苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「宇佐美君が間違えた問題見てみたんだけど、全部最後の2択で間違えているよね?」
「そうですね」
「ずっと、そうなの?」
「はい。何故か最後の2択を前にすると間違えてしまいまして……」
私は問題用紙に目を落としながらそう答える。この問題も1、2、5の選択肢はバッサリと切っており、最後の最後に3を選んで誤答した。正答は勿論、4番だ。三浦先生は暫く考え込んだ後、口を開く。
「関税自主権の回復を成し遂げた外務大臣は、陸奥宗光と小村寿太郎と、どっち?」
「え?ええと、どっちでしたっけ……陸奥宗光です」
「タラス河畔の戦いのときのイスラム帝国の王朝はアッバース朝とウマイヤ朝、どっち?」
「それは、その……ウマイヤ朝です」
「第三回十字軍を呼びかけた教皇はグレゴリウス8世、インノケンティウス3世、どっち?」
「難しい、迷うな……インノケンティウス3世です」
「塩の行進を行ったのはガンディーとキング牧師、どっち?」
「ええと……キング牧師です」
「やっぱりそうか……」
4つの質問を終えて、三浦先生はそうため息をついた。
「どうか、されましたか?」
「宇佐美君は珍しい能力を持っているみたいだね」
「珍しい能力ですか?」
私が訊き返すと、三浦先生は私の肩を掴んだ。
「君は、迷った挙句選んだ選択肢を必ず外すという特殊能力を持っている。現に今の4つの問題も迷った末に間違えただろ?だからこれからは自信を持って今考えていることと逆の答えを選ぶんだ!そうすれば道は必ず切り開ける!」
そんなバカな、と思った。ところが騙されたと思って実際にやってみると驚くべき結果が現れた。私は初めて、マーク模試の国語で満点を取ったのである。その後も2択で迷った際の『逆張り』は功を奏し続け、みるみるうちに成績は上昇していった。
そして3月。私の受験番号は見事、県立医科大学の合格者一覧に刻まれた。私は自らの特殊能力で、夢である外科医の道を切り開いたのである。
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