男Xが殺人鬼になるまでの手記

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 私にはもうこの衝動を抑えられそうにありません。今まで我慢して来たけど、そしてどうにかこうにかガス抜きをしてきたつもりでしたが、何かがぷつんと切れてしまったようです。  よく陰惨なドラマやアニメで人を簡単に(あや)めて楽しそうにしている殺人鬼が描かれていますが、あんなのは嘘っぱちです。楽しい事が無くても人を殺そうとは思いません。ただつまらないだけ、暇なだけでおしまいです。たとえ興味を持ったとしても今まで(つちか)って来た倫理観や善意とでも言うのでしょうか、私にも僅かばかり残っていた様な気もするのですがもうよく分かりません。もしかしたら他の誰かの助けで踏みとどまれる場合もあるのかもしれませんが。とにかくそういう自分をコントロールするブレーキが内側、もしくは外側から働いて、実際に行動を起こす(おろ)かな(やから)は居ないでしょう。何を申したいのかというと、もっと奥深い所の欲求と言いますか、私の場合「欲求とそれを表出させる為の手段をつなぐ糸みたいなもの」がどこかでこんがらがってしまったらしく、何かを傷つけたり破壊しないと自身を保っていられないという強い幻想に取り憑かれてしまいました。屈折した自己顕示欲とも形容出来ましょう。  果たしてどこで道を間違えたのか。それは恐らく幼少期に最初の原因があるように思われます。私の家庭は貧しい訳ではありませんでした、むしろ裕福な方だったと思います。三人家族でした。私の大嫌いなあいつ、父はよく働いてはいたのですが、いつも家族に暴力をふるっておりました。特に酒を飲んだ日は酷かったのを今でも覚えています。母はあいつが居ないときは優しくしてくれましたが、私が奴に殴られている時はただ黙ってそれを見ているだけでした。何か言うとあいつの暴力が余計に(ひど)くなったからです。私が母を(かば)おうとした事は数回ありましたが、その逆は一度も無かったと記憶しております。その内私も母を守るのをすっかりやめてしまいました。最初はわんわん泣いていたのも誰も助けてくれないのを悟ると、もう涙は出なくなりました。 
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