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この無人の部屋には絶えずクーラーがよく効いていて、むしろ寒いくらいだ。入り口に近い明かりをつけると部屋が明るくなる。
テニスコート二つ分ほどの広さの部屋に横に6列、縦に10列綺麗に並ぶ作業台。と、その上にそれぞれ180cm程度の大きなやや長細い袋がある。
ご遺体をいれた納体袋だ。
この、とある医大の解剖室には今年も篤志のご遺体が多く集まっていた。
医学生たちは教員の指示のもと、使い捨ての防護服を身に纏い、ご遺体にメスの刃をいれていく。
かつては生きて、動いて、微笑み、怒り、泣き、日々を暮らし、夢を見て、夜には眠り朝には目覚めて、生きていた一人の人間を、学びの志のもとに切り開いていく。
防腐剤に浸けられ、ゴムのように固くやや黄土がかった色の人の肌を切っていく。内臓はひとつずつ分けられ、血管や神経、肉の膜を骨から丁寧に丁寧に削がれていく。
八つ裂きなんてレベルではない。人とはここまでバラバラになれるものなのか、と初めて見た時驚いた。
一度、その話を同僚にしたとき、冗談でお肉食べたいですか? と尋ねたことがあるが、「馬鹿になさらないでください」呆れられた。
そろそろ警備員が見回りにくる頃だ。耳を澄ませば、コツンコツンと遠くで靴音が聞こえている。
いずれ、自分もここに並びたい。並べる日が来るといい。
そう願いながら、吸血鬼は身体を砂に変えてドアの鍵穴から出ていった。
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