7人が本棚に入れています
本棚に追加
彼、ジェイドは私の娘よりも四歳年上で、彼が五歳の時に隣へ越してきた。
初めは、いずれ娘の良い遊び相手になるだろうと思って、会う度に声をかけていた。彼は娘とも遊ぶことはあったが、私に話しかけてくることの方が圧倒的に多かったと思う。
大抵は彼が好きな魔物、ソイルライムの話。通常は土の中に住んでいて、攻撃しない限りは無害なスライムの一種だが、人に寄生することがあるという。確かに変わった生態だが、それのどこに浪漫があるのかは、全く理解できなかった。
一方、娘は十五歳の時に王都の魔法学校へ入学し、そのまま史上最年少で宮廷魔術師に就任。同じ頃、彼は知らぬ間に町から姿を消していたし、私も少し思うところがあって旅に出た。
ジェイド。
お前はもう、帰ってこないのか。
私は久しぶりの我が家に入ると、窓を開けてキッチン横のカウチに寝そべった。紅茶を飲みながら、空が夕闇に染まっていくのを眺める。黒教徒の声明が外れたことはないと聞くが、私に一人にできることなんて、何も無い。
すっかり暗くなった。
私がここに戻ろうと思ったのは、ほんの思いつき。何となくそろそろ戻らなければという予感がしたからだ。
最初のコメントを投稿しよう!