巫女とスライム

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 彼、ジェイドは私の娘よりも四歳年上で、彼が五歳の時に隣へ越してきた。  初めは、いずれ娘の良い遊び相手になるだろうと思って、会う度に声をかけていた。彼は娘とも遊ぶことはあったが、私に話しかけてくることの方が圧倒的に多かったと思う。  大抵は彼が好きな魔物、ソイルライムの話。通常は土の中に住んでいて、攻撃しない限りは無害なスライムの一種だが、人に寄生することがあるという。確かに変わった生態だが、それのどこに浪漫があるのかは、全く理解できなかった。  一方、娘は十五歳の時に王都の魔法学校へ入学し、そのまま史上最年少で宮廷魔術師に就任。同じ頃、彼は知らぬ間に町から姿を消していたし、私も少し思うところがあって旅に出た。  ジェイド。  お前はもう、帰ってこないのか。  私は久しぶりの我が家に入ると、窓を開けてキッチン横のカウチに寝そべった。紅茶を飲みながら、空が夕闇に染まっていくのを眺める。黒教徒の声明が外れたことはないと聞くが、私に一人にできることなんて、何も無い。  すっかり暗くなった。  私がここに戻ろうと思ったのは、ほんの思いつき。何となくそろそろ戻らなければという予感がしたからだ。
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