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私は窓を閉めた。その時、家のドアをノックする音が響く。私は左手で中級魔法の術式を組み、ドアノブには右手をかけた。
「久しぶりだな」
「驚かないんだな」
「驚いてほしかったのかい? 五歳にもなって他所の家でおねしょしたガキなんて、お前ぐらいだよ。そうそう顔は忘れられないね」
「ちっ」
「まだボケるには早い歳だからな。で、どうしたんだい、黒猫さんよ?」
夜に溶けてしまいそうな黒のマントを纏い、二つの尖った三角の角がついた帽子を被っている。世間一般に言われている、黒教徒の牙である『黒猫』の特徴だ。人懐っこく猫のように擦り寄ってきたかと思うと、その爪で数多の人を切り裂き、辺りを血の海に変えてしまうという死に神。
けれど、その目深にかぶった帽子から覗く銀髪と、いつも不満そうに見える目つきの悪さ。加えて、指を擦り合わせながら視線を左右に振る癖は、あまりに見覚えのあるもので。
「立ち話もなんだし、中に入りな」
「いいのか? 俺は」
「今更だな。昔は断りもなしに入り込んでは、私の服の匂いを嗅いでた癖に」
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