プロローグ

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プロローグ

砂浜に1人の少年。 その少年は目の前に広がる夕暮れ時の赤い海を見つめていた。 少し前まで穏やかだったその海はやがて大きな波を立て、いつの間にか足元にまで押し寄せている。 風も強く少し気を抜けば体を持っていかれそうになるほどだった。 しかし、それでも何かを探すように小さな少年は海を見つめ続けていた。 右手には青い色のゴーグル。 ゴムのところに何か書いてあるようである。 字はまだ読めないものの自分のものではないということはまだ幼稚園に通う幼い彼にでもわかるほどの事実だった。 波は少年の心の内など知ったことかと言うように 次々に足元へぶつかってきた。 だが怒りや苛立ち、そんな分かりやすい感情など浮かんでこない。 むしろそれを超越したもっと何か別の起伏が、胸の内壁を熱く燃やしていたから。 少年にはまだその感情を言葉で表現することができなかった。 日が沈んでもなお 海の中心を見つめていた少年は、何かを決意したようにゴーグルを握るその右手に力を込めた。 暗くなっていく海の風と波はさらに勢いを増し、まるで闇の世界への訪問を歓迎しているかのような轟音を響かせている。 不意に少年の目から涙が一粒零れ、風に乗って飛ばされていった…
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