姥捨て山

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 スイーツを食べ終えると山登りの話になる。おじさんは今日は散歩がてらの低い山だったが、普段はもっと高くて険しい山に登っているらしい。一度だけ冬山で遭難しかけたんだという。 「見渡す限り同じ景色でダメだと思ったんだ。そしたらお婆さんが現れて俺を温めてくれた。お婆さんは(うば)捨て山で捨てられた霊だと自分で言った。俺は不思議と怖くなかったんだ。(うば)捨て山なんか作られたた怖い童話みたいなもんだと思っていたけど地方には本当にあったんだな」  お母さんが両手をクロスして自分の肩を掴む。 「私も捨てられたいと思ったんです。だって、明希が結婚して子供でも出来たら私なんて邪魔になるだけでしょう。姑って呼ばれて疎まれるだけ。そんなのまっぴら。だったらクマにでも襲われて死んだほうがいいと思ったの」  おじさんは眉間に皺を寄せる。 「あの山にクマはいないよ。遭難したら怖くて後悔するだけだ。お母さんも長い時間草むらの中にいたから分かっただろう。見付けた時ブルブルと震えながら泣いてたじゃないか」  僕はお母さんが泣いている姿を想像して悲しくなった。でも愛実ちゃんと別れるつもりはない。どっちも大切な人間だ。
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