時を越えるオルゴールの音は奏で

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「お嬢様ー! ルフィお嬢様?!」 「もっとよく探すんだ! もうじき出棺だぞ」  ロベルト・フォン・ハミルトン家の使用人たちが、ハミルトン伯爵家の12歳の令嬢ルフィを探している。  それを知りながら、ルフィは今、広大な邸の中の一番北東に位置する埃被った屋根裏部屋……そこは狭く、天井も低い、使用人たちですらあまり知らないルフィの隠れ家に身を潜めていた。 「お母様……」  グズっと、ルフィは涙ぐんでいる。  彼女の母であるルイーザが、長年の闘病生活の上、とうとう亡くなったのだ。  ルフィは、膝の上に乗せたアンティークのオルゴールの蓋を開けた。  懐かしい、優しいバラードのメロディーが流れ始める。 『愛しいルフィ。お母様は、体が弱くて、あなたに子守唄を歌ってあげられない。代わりに、このオルゴールの音色を、お母様の子守唄と思ってね』  七つの誕生日に母から贈られたオルゴール。   闘病中の母とは、ほとんど側に居ることが叶わず、淋しくて泣きそうな時、ルフィは決まってこのオルゴールの蓋を開いた。  それは、甘く優しい音色。  母が本当に歌ってくれているかのようなメロディ。  その最愛の母がもうこの世にいないなんて!  悲嘆に暮れていたその時。 「ルフィ! いるのかい」  彼女を呼ぶ声がして、ルフィはビックリした。   「お父様……」  ドアの方を見れば、ルフィの父親が入ってきた。 「ここだと思ったよ。お父様も小さい頃、よくここに隠れていたからね」  柔らかく微笑みかける。 「さあ。辛いだろうけど、お母様をちゃんとお見送りしてあげなさい」 「……お父様……」  ルフィは、父の胸に飛び込んだ。  オルゴールは、まだその透明な美しい音色を響かせていたが、段々と途切れ、やがてゆっくり止まった。  それは、一筋の蝋燭の炎のようにゆっくりと命の灯が尽きていった母ルイーザの人生と重なり、ルフィは激しく泣いた。  その後、そのオルゴールが音を響かせることはなかった。  ルフィの生涯で、もう二度と……。
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