2 きっとあなた窘められる

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『👹おい‼ 展示 boothの  システムキッチンの新商品、  入れ替え工事が終わってから、  全営業、広報、各部署の担当に、         連絡したのか⁉ 』               「えっ…あっ!💦        申し訳ございません。            まだ…です...」 朝一番に入った内線電話は、GM高井からで、 受話器から漏れる、その声の大きさと、凄み の有る野太い声は、ココ、研修会場のstaff、 皆を固まらせる。 それは、シッカリと、聴き取れる、くらいな ボリュームなのだが、茉由は、スピーカーに 切り替えて、各々が、それぞれの手を止める 様に合図すると、GMの「云いつけ」を、皆 に集中してキカセル。 『👹 広報は宣伝広告、CM等の件。  営業に知らせなければ、  セールストークに活かせないだろ、     ど・う・す・る・ん・だ‼』 『 お客様へ、せっかくの新商品を  ご案内できないんだぞ!おまえ…  マンションギャラリーで  働いていたくせに、    そんな事も分からないのか‼』         「申し訳ございません…💦」 茉由は、 電話に頭を下げる。 『👹 それと!   次回の、マンションギャラリー、  接客担当のマナー研修は?  スケジュール、出てないぞ!  講師の手配は大丈夫なのか⁉』        「...申し訳ございません、            まだ…でした💦」 茉由は、 desk前の、壁の上部に取り付けられている cameraに向かって頭を下げる。 『👹 ナニ!やってるんだ、     おまえはそこで‼』            「スミマセン…💦」 茉由は、 次から次へ、失態を指摘されてしまったので、 たじろぎ、こわばった表情の、 その、おっきな眼は涙で潤んできた、 それでも、 高井の声のトーンは、ますます激しくなる。 『👹 も う!  講師のスケジュール押えないと、  間に合わないぞ!泣いたって、  しょうがないだろ、しっかりしろ‼』             「はい…💦」 高井は、 上のfloorの自分のdeskに座ったまま、 cameraで茉由の落ち込む様子を確認 しても容赦しない。 『👹 いいか!奈美恵と乃里に、  マナー研修の方は任せて、  おまえは、沙耶と、  営業のスケジュールを調べて、  そこへ来るのに混雑しない様に  日程調整だぞ、チャンと、  全担当者に、新商品を覚えさせろ!         さっさとやれ!』         「はい!         申し訳ございません💦」 内線電話をスピーカーにして、皆にキカセテ いた茉由は、独り、皆の前で、ウナダレル。 研修会場の係長としてのプライドも、管理者 としての手腕も何も認められていない事を、 まるでハッキリさせるような、こんな高井の 内線電話は、茉由のことを、 まるで、ココのstaffたちの前で、 「さらし者」にする。 高井は、 ココを仕切っていたマリンが抜けたタイミン グ?それとも、このところ、茉由が高井と距 離をとりたがり、高井が迎えに来ても、無礼 にも、その横をすり抜け、以前のように一緒 に帰らなくなったことが影響しているのか、 茉由に対する態度がキツクなっていた。 茉由は、 1人減ったままの、少ない、 ココのstaffたちでなんとか、 やっていかなければ ならないのに… 主力のマリンが抜けた事は大きい。 高井に全否定されても、プライドは、もとも と自覚が?ない茉由は、正直、ピンとこない し、分からないが、 それよりも、 こんなに大声で、怒鳴りつけられると、 それが怖くて委縮してしまうのだが、 それでも、 マリンが居なくなってしまったので、 ココの、長のdeskに座る者としては、 頑張らなくてはいけないと、 内線電話が一方的に切られると、 すかさず、ココのstaffたちに指示を出す。 「 申し訳ありません。皆さん!  お日にちもないので、いったん、  いまのお仕事の手を止めて、  各自、  GMがおっしゃったとおりに、  手分けをして、いま、  ご指摘があったお仕事に  集中して下さい。…結奈さんは、  奈美恵さんの方のお手伝いを          お願いします」 「 はい 」 「 はい 」 「 はい 」 …こんな、茉由の、ココでの係長としての、 「指示」とは、こんな程度の、カンジだが、 ココのstaffたちは何も言い返さずに、 そつなく、作業を、始める。 「 はい、承知しました!」 結奈は、 ワザと、明るく、返事をした。 茉由と共に、今までも、 高井の激高した姿を 何度も目の当たりにしているので、 この2人の間には、同感・共鳴・ 同情・ 思いやり・が、もう、シッカリと 出来上がっていたみたいで、 ♫♬♫ いま、この2人の頭の中には ♬♫♫ ♬♫♫ ラヴェルのボレロが流れている ♬♫ 同一のリズムが保たれている中で、2種類の メロディーが繰り返されるのが特徴的な構成 のこの曲、だんだんスケールが大きく… 高井は、気分を害すると、その怒りは、 なかなかおさまらない、厄介な男でもある。 茉由は、 こんなに困ってしまっても、 有難い事に、いつも皆に助けられる。 結奈以外のここのstaffたちは、マンション ギャラリーでの接客担当から、ココへ異動に なってきた茉由よりも、長く、この研修会場 の仕事をしている。 高井からの指摘にも、それに対し、どう対処 して良いのかも、各々はチャンと分かってい て、さっそく、自分たちの仕事の手を止めて、 まずは、これに集中して取り掛かってくれた。 「 ありがとうございます!  皆さん、よろしくお願いします💛 」 そんな、 お声がけはできても、まだ、 茉由は、この中で、一番モタモタしながら、 皆に支えられて、頑張っていた…          …大丈夫かな、私…         「あっ!亜弥さんに            連絡しなきゃ…」 茉由はバタバタの中、 広報の亜弥に電話した。              「あっ、お忙しいところ        申し訳ございません!        亜弥さん?今、お電話           大丈夫ですか?」 「はい?茉由さんですね!      お疲れ様です 」       「あっ、お疲れ様です。        スミマセン…、私、        システムキッチンの        新商品の件で、        ご連絡が遅くなりましたが、               この件は…」 茉由は、スピーカーにして、 沙耶にも聞いてもらう。 「 あっ? はい…、  大丈夫です。それでは、  さっそく、  写真を撮らせていただきます。  担当の者は…、  席を外しておりますので、  戻りましたら、  本人から電話させます。  それで、宜しいですか? 」 茉由は、沙耶の表情を確かめる。 沙耶は、優しい笑顔で肯いた。        「…はい、大丈夫です。         宜しくお願いいたします」 茉由が 電話を終わらせようとすると…、 「 あっ!茉由さん…」  亜弥は、  茉由に?              「 はい?」 「 あの…、  大丈夫ですか?」              「 はい?」 「 いえ…、  お忙しそうなので…」 亜弥は、 ハッキリとは言わない。         「 あっ!そうなんです…、          私、ドンクサイので、          仕事が遅くって、          ココの皆さんにも              ご迷惑を💦…」 「 いえ!   そうではなくて…、  ご無理をされると…」              「 はい?」 「 あっ!ゴメンナサイ、  私…、余計な事を…」        「 イエ…?お気遣い💛         ありがとうございます!」 茉由は、 そう言ってみたものの、 亜弥の言っている事の意味が 理解できなかったのだが… 「 すみません!  それでは、後ほど!」 『 プッツ… 』                「……❔」 茉由は、 キョトン、と、電話を見るほど、 亜弥はそのまま、 不可思議な終わらせ方をした。 こんなに、 職場では、バタバタの毎日なのに、 そんな時にでも、茉由の周りは、静かでは なく、何事にもドンクサく不器用な茉由を 困らせている。 夫は、大きな大学病院の教授に昇進して、 家の中では、家族もザワザワしているし… そんな夫も、茉由と距離は保ってはいるが、 不気味なままだし…、 離れた処に居るはずの、同期の佐藤は、 訳の分からない、花を送ってきたり、 茉由に強く干渉するメッセージを送って きたり、それも、それだけじゃなく、 咲と梨沙を巻き込んで、 茉由の事で騒ぐし… それなのに… その、 佐藤が仕事を失敗して? 関西から還ってきて、 先日、 それを心配した同期達は、 咲の処で、 「同期会」を開いた。 でも、 皆が佐藤を心配し、気遣いするそんな場で も、茉由は、複雑なままだった。 茉由は、 佐藤を同期以上には思えないのに、 佐藤が茉由の事を干渉してくるのには困って いた。けれど、そんな、自分の気持ちを上手 く佐藤には言えない。 それに…、 佐藤の事を警戒し、その行動が、 気になってくると… 関西に居た時の、あの「事」もフラッシュバ ックしてきて、前回の、咲と佐々木の結婚報 告会の後での「事」もあったし… 茉由は、困惑しながらも、何も自分からは、 できない事が、もどかしい。 けれど、そんな茉由の、 辛い気持ちが分かったのかどうか… この佐藤の事では、 茉由の知らない処で、高井が動いていた。 高井は、 佐藤が茉由の事なのに、咲や梨沙にまでメッ セージを送って大騒ぎをする事は、気づくこ とはできないが、 佐藤が茉由にしたことは、それだけではなく、 このところ、茉由が気にしていた、茉由の家 の前に停まっている、不審な車の事もある。 ―      「 あれ?また…、あの車?」 このところ、茉由の家の前には、同じ、 白いセダンが一台、停まっている…            「 なんで... 」― ―      「 あれ?また…、あの車?」 白い車は、特別な色ではないが、やはり、 気になってくると、目立つ車の色。 このところ、茉由が仕事から帰ってきた時 や、 朝、出勤のために、外に出ると、同じ? この車が停まっている…。             「 翔太?」 茉由は、メッセージの事も気になり、車に 近づいてみる…            … 違う人?… 運転席には、見知らぬ人、30代くらいの、 男の人が乗っている。茉由が近づいても、 前を向いたまま、車を動かさないで、 そのまま停車していた。 茉由は、見知らぬ人が乗っていたので、 何も見なかったようにそこから離れ、 自宅に入っていった。            … なんで… ― 『 ほかの日にも… 』 ― 茉由は、 家に入ろうとすると、急に、 スーツジャケットのポケットの中で、 スマホが鳴った。 茉由は我に返り、 急いでスマホをとり出した。 『 今日も、 GMに送ってもらったのか?』 佐藤からの、 メッセージだった。         …えっ?なんで?…           「なんで?」 茉由は 佐藤にメッセージを送ったが、返って はこない。        …どうして、          翔太?分かるの?… 佐藤は関西のはずなのに? 茉由は、 高井の車を降りると、すぐに、メッセージが 入ったのに驚き、周りをキョロキョロと注意 してみる。 でも… 今まで気になっていた白い車は停まってい ないし、佐藤も居ない。 いまは…、白い車が停まっていた処には、 黒いワゴン車が停まっている。 茉由は、 それが気になり、また、道路に出て、 黒いワゴンに近づいてみる。 中には、 知らない、30代くらいの男性が1人、 運転席にいるだけ。でも、なんで、ここに 停まっているのだろう…、そう、この車も、 もう、何度か見ている車だった。 茉由は、 怪訝に思ったが、知らない人だったので声が かけづらく、仕方なく離れた。「気になる」 けれど、「何もできない」。なんだか、 スッキリしないまま、何度か振り返りながら、 家に入った。             ― 高井は、 茉由を自宅まで送る時に、自分は車を降りな くても、いつも、車のバックミラーで、車か ら降りて自宅に入るまでの茉由の事を確認し ている。 なので、 鈍感な、茉由が異変に気づくほどの、 あの、「白い車」の事だって、 高井は気づいていて、 茉由が気にする以上に警戒し、 すぐに動いた。 高井は、 茉由に心配をさせないために、 少し車を走らせて、 離れた処に車を止めると、すぐに戻り、 直接、白い車の男を問い詰める。 すると、 強面の高井にビビった、この男は、アッサリ、 大学の水球部の先輩である佐藤から頼まれて、 茉由を見張っていた事を話した。 その白い車の男は、 高井に問い詰められたことを、先輩の佐藤に は話せずに、自分の仕事を理由にして、それ 以降、佐藤から頼まれると断っていたが、 佐藤は、 そんな、高井の動きに気づかずに、 それでは、と、今度は違う後輩に頼んだ。 それが、黒い車の男だった。 高井は、 それを確認すると、そんな事を繰り 返す佐藤に腹を立てた。 佐藤がそんな事で、茉由を怖がらせるのも、 関西に居て、関東から離れているからだと 考え、佐藤を異動させる事を思案するが、 ただ、 動かすのではなく、 高井は、 佐藤を試す。 佐藤が、茉由の方ばかりを、気にしているの なら、仕事に対して、全力を出していない事 も想像ができるし、関西に残してきた、 自分の為に動く者たちに探らせても、実際に、 佐藤自身の仕事に対しても、エリアマネージ ャーとしての、管理職の立場の者としても、 隙だらけ、の、ことも判った。 ならば、 佐藤の動きを、しばらく、 視る、事にした。 そんなときに起った大事が、 関西で起きた、あの、 「社外秘書類の誤送付」だった。 これには、 職場管理、 PC、書類等の管理責任がある事と、 この時の問題になった対応への、 佐藤の対処方法も、お粗末なものだった。 高井は、これで、 佐藤は、「仕事ができない」と判断した。 これでは、 会社の為にもならない。けれど、 それならば、なおさら、無理には動かさない。 そんな佐藤が、 過ちを繰り返しても困る。 だから、 自分は動かずに、都度、他の者から状況を報 告させ把握しても、黙ったまま、佐藤には、 最後までやらせて、本人にも、自覚させてか ら外した。 そのあと、 高井が入って、現場の仕切り直しが必要でも、 男としても、上司としても、仕事を二の次に しか考えていなかった、中途半端な仕事しか しなかった佐藤を許さなかった。 そして、 高井は、まだ、手を緩めない。佐藤に、責任 をとらせて、出向させたのに、その先の、 グループ会社でも、 マリンに見張らせる。 マリンには、やる気を出させるために、 佐藤の事は伝えずに、重大な任務「営業本部 のため」と伝えて、この会社の、イメージに も影響がある、そして、営業成果にもかかわ る、 管理会社のオペレーション。各物件の管理、 管理室業務、コンシェルジュや、お客様窓口 対応など、それぞれの業務がちゃんと適切に 行われているのかを、 マンションコンシェルジュの、エリアサポー ト職で、グルグルと動きながら、視る様に、 と、伝えた。 高井は、 何事にも、目を向ける。 今回は、佐藤の出向を機に、自分は、直接、 管理会社に関わる事はしないが、 「内部の情報収集」にまで手を付ける。 マリンの仕事は、 一石二鳥、三鳥、四鳥の、 佐藤のため、だけではなく、 茉由のため、だけではなく、 営業本部のため、だけでもなく、 グループの中でも、本体の次に大きな、 管理会社を知る事は、ここ本社での、 『上を向いた、自分のため』にもなる。 だから、 すんなりと、 異動を希望したマリンの話を きいたのだが、 佐藤も、マリンも、 本社の最上階に居る、 「社長」も、 そんな 高井の考えを、  まだ…、知らない。    「そうだな! やっぱり、          チャンと、シナキャ、              ダナ、俺!」 急に、空にしたビール缶を『カシャ!』っと、 つぶすと、佐藤は、茉由の前に向かった。               『 エッ!』 茉由は、驚き、顔が強張ったまま、腰かけて いたソファから離れ、静かに、2,3歩下がる。 「ゴメンな!茉由、  おまえに説教までしてたけど、  俺が、違うんだよな!  後輩迄使って、  おまえの事、見張らせて…、  突然、何も告げずに、  花を贈ったり、いや、  怖かっただろ?ホントに、         悪かった!」 佐藤は、 スパッ!と、気持ちの良い頭の下げ 方をして、茉由に詫びた。         「エッ…、あの車、          やっぱり? うん…」 茉由は、 小さく肯いたが、怪訝そうな表情の ままで、まだ少し、わだかまりがある? 佐藤が、軽い感じで謝罪をして、そんなに、 悪びれる事もなく…、 自分の後輩を使って「見張らせていた」こと を聴かされ、さらに、もう、勝手に、 済んだこととして、平気な顔をして目の前に 居られても、 茉由は、 そんな、佐藤を、 やはり、警戒し、 また、暫くして、もし、 佐藤の気になる事がでてきたら、 そのときも、 何かされるのかと思うと、 不安になるし…、 佐藤が、以前にも、 関東に戻る事になった茉由との別れが辛くて、 突然、豹変し、茉由をマンションギャラリー の、備品庫に閉じ込めた、 関西での事も、フラッシュバックし…、 咲と佐々木の、結婚報告会の後、帰り道で、 大声で、わめき散らされ、無理やりkissさ れたりしたことも 茉由の頭の中には出てきて…、 茉由は、 佐藤との距離が、近くなればなるほど、 恐い気持ちの波が、大きく、 ものすごい勢いで、襲ってくる。      『 翔太って、急にカワル、          ときが…あるから…』 そんな佐藤は、 「おっ!  ビール、まだあるじゃん!」                『プシュ!』 茉由にクルッと、背を向け、 茉由の気持ちが分からないまま、もう、 いままでの事、の、謝罪が済んだ、と、 スッキリとした佐藤が、酔った勢いで、 まだまだ、自分の、云いたい事を吐き出す。              『グヴィ!』 「あー、マジ!あのままだったら、  俺、最悪!犯罪者に  なってたのかもしれないしサー、  やっと気づけたけど、  このタイミングでこれって…、  俺、あんなに嫌ってたのにサー、  もしかしたら、GMに…、     助けられたのかもって!」 これに、皆は、 佐藤の事を全部、 判ったわけでもないのに、 あまりにも 佐藤がケロッとしているので… 「そうなんだー!なんか、  …分からないけど、   良かったじゃん、翔太!」             『ペシッツ!』 もう、 イイカンジに酔ってきた梨沙は、 陽気に、佐藤の肩をたたいた。 「あぁー、そうだな!」              『グヴィ!』 佐々木も、 笑顔で、乾杯のポーズをとり、 美味しそうにビールを飲む。 「そうかもしれないね!」              『グヴィ!』 賢い咲きも、なんだか明るく、 何でも素直に、見えるまま、に、 考える佐々木と同じ様に、 乾杯のポーズをとり、 心配していた大切な同期の、 なにか、吹っ切れたような姿に安心して、 一緒に美味しそうにビールを飲む。 同期の誰も、こんな佐藤の 「…後輩迄使って、  おまえの事、見張らせて…、  突然、何も告げずに、       花を贈ったり…」 「犯罪者に、  なってたのかもしれないし… 」 の、 ホントの意味を分からないまま、 聞き返さない。 茉由だけは、 ここに居ても、 皆から少し離れた処で 静かにしている。       … どう、しよう …            そう、なの?…        翔太がそう思うのなら…         …でも …              … ん …         あれ?…        … じゃあ、結局、私 … 自分では…         何もできないけれど…        翔太が云う様に…               …GMが… ふと、 茉由は、何か気づいたようで… 茉由は、 ここには居ない高井に思いを寄せる。 それから何日か過ぎ…          「 お疲れ様でした 」 仕事が終わると、茉由は皆に挨拶をして、 研修会場をでた。 このところ、 高井は、茉由を仕事終わりに 迎えに来てはいなかったので、 茉由は、 すっかりマイペースに、仕事が終わると、 独りで帰っていたのだが… でも、この日は… 「おい!」 高井が、 以前の様に、通路で待っていた。         「あっ、お疲れ様です」 「あぁ…」 高井は、 茉由の前を歩きだす。これも、以前とは 変わらない。けれど…、この日も茉由は、         「GM?          私は、電車で帰ります」 「あぁ?」 高井は、 怪訝そうな顔をした。         「私、          独りで帰れますから…」 茉由は、 高井にそう言うと、高井の横をすり抜けて エレベータへ向かう。 そのまま、茉由は独りでエレベータに乗ろう とすると、 「おい!」 高井は、 茉由の後ろから声をかけ、 茉由に追いつくと、 茉由の腕を引っ張り、 エレベータから離す。 「おまえ、いつまで…  こんなこと続けるんだ⁉」 高井は、 いつも茉由にはあまり喋らせずに、 何でも自分で決めてしまうのだが、 めずらしく、 茉由に喋らせようとした。 茉由は、 このところ、高井との距離を、改めて、 考えていた。 だから、 高井と一緒に帰るのにも、少し、 抵抗があるし、 そのほかにも、 気になる事もあって… 茉由は、 高井に対してある処からメッセージも 出しているが、まだ、 気づいてもらえていないのだろうか、 とか… 高井に云われた事、 も、あるし… 高井は、 一瞬、右の眉を上げて、 不機嫌さを出したが… 「おまえ、ナニ、    考えてる?」         …GM覚えてないの?…         「ずいぶん…          前の事ですか…             でも、私は!」 「……」 茉由は、 改めて、高井の表情を確かめる。 高井は、 茉由を安心させるように、 優しそうに微笑んだ。 「いいから、言ってみろ」      「あの…、GMは、前に、      『あぁ…、おまえ…、       いいかげん、大人になれよ…』                 って…」 茉由は、 たくさん気にしている事がある中、 家庭の中の事は話したくはないし、 佐藤の事も、 悪くは、云いたくはないので、 高井が分かりやすいように? 以前、高井と、 夜桜を観た時の事を持ち出した。 ― ここの夜桜も有名だった。その通り、二人の 目の前には、暗い中にも、見事な華やかさが 広がっている。夜には余計なものは見えない。 黒と桜の花びらの色のコントラストは、高井 好みだった。 二人が並んでベンチに腰かけたまま落ち着く と、もう、すっかり、日も暮れて、肌に触れ る空気もヒンヤリとしてきた。これならば、 茉由の鼻血も、このまま、きっと、止まる…。 しばらく時間が過ぎたので、高井は、茉由の 鼻に詰めたティッシュを取り出し、ウエット ティッシュで、鼻の周りもきれいにした。 茉由は自分でバッグから手鏡を出してその姿 を確かめる事もなく、もう自由に身体が動か せる状態なのに、また、ヘマをするのが怖く て、目をパチクリ動かすだけで、躰は固まっ たままだった。 「 おまえのマヌケ面…、  ここが暗くて助かったな、         戻るぞ…」                「……」 高井は、茉由の為に、もしも、自分たちの近 くに、人が寄ってきたら、得意のサメの様な 凄みのある目つきで、にらみを利かせて追い 払おうと考えていた。 だから、そんな、無理を通す必要もなかった ことにホッとし、 小さく息を吐くと、スッと立ち上がって、 ベンチから離れた。 ここは公園なのだから、 自分たちの時間はここまでにして、 夜桜を楽しむ人たちにこの場を譲る。 「 おまえが…  これじゃぁ…、  押し倒す気にも  ならないからなぁ…」              「……」    …いつになったら、私が、     メッセージを出していることに             気づくんだろ… 高井は、サッサと、歩きだしているのに、茉 由は、トボトボと歩きながら、高井と一緒に 居ても、こんな時に、そんな事を考えている。    …それとも、GMは、気づいていても、      気づいていないふりができるの… 茉由は、高井にあてたメッセージをある処か ら出している… 茉由は、広くて大きな高井の背中だけを見て 歩いている。 茉由のその気持ちは、高井には伝わっていな いのだろか…、高井の、思いは、茉由には、 分からない。 それに… 茉由は、車の中で、あんなに頑張って、高井 に意見したのに、それだって、高井にはきっ と、もう、なにも、残ってはいない。 高井が茉由を「護る」、事は… これは… 茉由にとっては…もどかしい。       …でも…、なんか、        鼻血がでて良かったのかも… 茉由は、鼻血に助けられた… 二人は公園を離れた。 でも…、この公園は、 〇〇〇〇ジンクスがある…         「お疲れ様でございます」 「あぁ…、おまえ…、 いい加減、大人になれよ…」    ― 茉由は、 自分の中でいろいろ悩みながら… これからも、 上司と部下との関係は続いて行くのだから、 やはり、 怖い高井を怒らせたくはないけれど、 それでも、 高井とは、少し距離をとった方が良いとも 思っていて… 茉由は、考えても、 頭の中がグジャグジャで…、 それなのに… 高井は、 アッサリ、そんな事もなかった事に、 してしまう。 「…あぁ? あれは…、  おまえが、仕事の事で、  グダグダ言ってきたから、  ちゃんと、わりきって、  仕事をしろ!   って、事だが…、  そうか…、おまえには、    分からなかったか…」         「えっ?それじゃぁ…、             私の、カラダ…」 「だから! 違うだろ!」 そう、間髪を入れずに茉由の言葉を遮ると、 顎を右斜めに上げて目を細め、高井は呆れた。           ...だって、あの時は... 「あぁ~? べつに、  大したことじゃないだろ…、  俺は、おまえのカラダなんて、  もともと…、それに、おまえ、  分かってないな…、  そんなに薄っぺらいカラダつきで、  おまえに色気も何も…、俺は、  もっと胸のデカイ女が好きだし、  あぁー、まぁ…、おまえ以外も、  うちの会社は、7号、9号サイズの、  女ばかり、だが、なぁ…  それに…、俺は、そこまで、      女には、困ってないぞ…」 「右斜め上に顎を上げて目を細める」のは、 相手を、小ばかにする時の高井の癖。 高井は、(亜弥から、もう聞いて、いて) 茉由の病気の事も、茉由が自分の気持ちを、 メッセージにして出している事も、 もう、すでに、何もかも、 分かっているのだろうか、 なんだか… いつもよりも饒舌に茉由を説得する?         「…はい?」       … やだ!私、また …、        バカみたいじゃない💦…      … それに…7号、9号は、       皆、「それに合わせて」       体形管理してるんですけど、       会社のセイじゃない、             それって!… 茉由は、 真っ赤になって、俯いた。 この会社は、接客担当に、お揃いの、 スリーピースのスカートスーツを支給して いるが、そのサイズは、7号、9号しか用意 しておらず、 皆、それにカラダを合わせるしかない。 背の高さも、決められた、黒のハイヒールを 履いているのに、同じくらいの者ばかり、 マンションギャラリーのentranceで、お客 様をお出迎えする時に並ぶと、デコボコし ないように? 考えられていて、 この会社の営業担当、接客担当は、 この、高井も含め、男女とも、スレンダー な、容姿端麗の者が揃っている。       …もう…、GMが、        紛らわしい言い方、        するからでしょ、ハズッ!… 茉由には、 高井が、何を考えているのか分かりづらい。 いまも、怖い、 背の高い茉由よりも、もっと背の高い、 細身のブラックビジネススーツ姿の、 強面の、オールバックの、高井は、 茉由の腕をつかみ、 一緒にエレベータで地下駐車場へ向かう。 そのまま、 高井は茉由を放さずに、 車に向かって、茉由を後ろ手で引っ張りなが ら、何も言わずに茉由の前を歩いて往く。              「……」 茉由は、 腕を引っ張られ、高井の車に乗せられても、 まだ、黙っていた。 このままでいいのか、まだ、迷っている。           「あの…、でも…、                GMは…」 「なんだ?  まだ、何かあるのか!」              「いえ…」 「ぁあ~⁉」 高井は、 右眉を上げ、茉由を睨みつける。            「スミマセン…」 「フッ...」 茉由が、 シュンとして凹んでしまったのを見ると、 高井は、諭すように、優しい口調になる。 「…マリンが抜けたんだから、  おまえは、シッカリ、  しなければならない、だろ…」 高井は、 上司の顔になる。              「はい…」 高井の、 いつも通りの、 そんな様子を見ると、 茉由は、 ようやく、安心して、 高井の言葉の意味も、 もう、確認する事もなく、         ❔❔❔❔❔❔         …ん?仕事の話、なの?           じゃぁ、一緒でも…          帰るだけ?なら?            大丈夫?かな?…               ❔❔❔❔❔❔ 茉由が、カチャッとセットした、 シートベルトに手をかけたまま、 キョトンと、大人しく 助手席に座っている様子に、 …おい、  相変わらず、   単純、だな… 高井の車は、 茉由を乗せ、地下駐車場から出ると、 本社前の、片側三車線の道路を、 すぐに左折し、 新宿方面へ向かった。
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