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銃の音に怖気付ひたのか、獣は其れ以上追つて来なかつた。
もう十分離れたと思しき処で彼は立ち止まり、傷口の様子を見た。
左腕の上辺りにざつくりと大きな傷が出来て居り、其処から血が大量に
噴き出してゐた。已に多くの血が流れて了つた後のやうで、彼は激しい
目眩を感じてゐた。猟師は着実に死へと近付ひてゐるやうだつた。
其の時、唐突ではあるけれども、彼の胸中に死への恐怖が湧き上がつたの
である。
其れは、今まで猟師が感じてゐた諦念を掻き消すのに十分な程の、
強ひ原始的な衝動であつた。
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