一、

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野犬に襲われたとしても此ふはなるまい、と翁は思つた。 不思議の感を抱いた翁は何者に襲われたのか、と猟師に問ふた。 猟師は分からぬ、と答へるばかりであつた。ただ黒々とした大きな獣が 我の腕に噛みつひて来た事のみ覚へてゐる、とも語つた。 其れを聴いた翁は、戦慄した。 傷の異様な大きさは、彼を襲つたのが巨大で強力な獣であつた事を示して ゐる。其れと猟師の証言を併せた時、彼を襲つたのは熊か狼、その孰れかと しか考えられなかつたのである。
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