ニ、

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此の一大事に於いて、巡査たる大木翁に降り掛かる責任は愈々重大だつた。 一人の猟師が山の深奥に於いて獣に襲われた、と云ふ事実は集落の大半の者にとつて、単なる遠ひ山の中で起こつた出来事に過ぎぬ。人々の話題には上つても、其れを自分達の生活と関連付けて考える者は少なひだらう。 而し、猟師を襲つた獣が集落をも同様に襲つて来ると云ふ可能性は、決して 低ひものでは無ひ。其れを翁は考慮せねばならなかつた。 其の上で集落に被害が加えられる事を、国家の威信に懸けて防がねばならなかつたのである。
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