三、

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集落に居る猟師は、熟練新人取り混ぜて凡そ三十人程である。 其の内に勘助と云ふ者が居る。此の男は齢既に六十に近く、 山中に庵を結んで暮し、四十年以上もの間山中で猟を続けて来た熟練中の 熟練であり、集落の猟師達から頭領のやうな存在として慕われてゐた。 他にも四、五人くらひ、熟練と自他共に認める猟師が居るが、 其れとて勘助に敵わぬ事を皆分かつてゐる。 十四で初めて山へと猟に入り、其の初陣で大きな熊を仕留めて還つて来た だとか、二十頭近ひ狼の群れに一人で立ち向かひ、傷一つ負わずに其の全てを仕留めたなどと云ふ、伝説的な逸話にも事欠かぬ人物である。 さうした逸話には当然幾分かの誇張が入つて居るのだらうが、勘助が狩を 誰よりも良く知る人物であるのは、間違ひ無ひ事だつた。 故に翁は、集落の猟師の協力を得んとするに当たり、先ず此の勘助より 始める事にしたのである。
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