三、

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迅速に思考したとは云へ、獣に襲撃せられた猟師が還つて来てから、翁は既に数時間もの時間を使つて終つて居り、辺りは完全に夜であつた。翁は時間を無駄にする事を望まなかつたが、流石に夜中山に入る勇気までは持ち合わせて居なかつたから、翌朝を待つて勘助の庵に向かふことにした。負傷した猟師の容態も心配ではあるが、彼には二、三の見張りを付け、変化が有れば直ぐ報せに来るやう、言ひ含めておけば大方大丈夫だらうと判断した。また勘助の庵までの護衛として、自ら志願した猟師が二人付く事になつた。翁の居らぬ間は、数人の猟師が集落の警戒に当たると云ふ。 翁は其の夜、与作の家に留まる事にした。少し悩んだが、矢張り負傷した猟師の容態が気に掛かつたのである。 集落には医者も居らぬから、彼を治療する為には一里離れた村から医者を呼んで来る他無ひだらうか、などと考えてゐる翁の耳に、一大事の報せを伝え合ふ人々の声が響ひて来る。大方与作の家に居合わせた誰かが触れ回つたのだらう。 どの道翁にとつては眠れぬ夜だつた。
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