縁則天(言文一致版)

三、

此の結果に翁は満足し、早速其れを実行に移すべく山を降りた。
勘助も直ぐに山を降り、事が済むまでは翁の家に逗留する事になつてゐる。
勘助の協力も得る事が出来たし、今後の方針も立てる事が出来た。
まずまず、上々の滑り出しだと翁は思つてゐる。
如何に不十分であつても、物事は先ず始めねばどうにも為らぬ。
其れを思へば翁は今、大ひなる前進を成し遂げたと云へるだらう。
集落の戦備は着々と調ひつつある。
未だ獣の正体も分からず、其れが本当に集落を襲つて来るのかも分からなひ。
相手は何とも思つて居らぬのに、此方が勝手に力んでゐるだけかも知れぬ。
執つた対策が全て無駄になる可能性もあるだらう。
其れでも今、翁と未知の獣との戦ひが確かに幕を上げたのであつた。