四、

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夜が明ける頃、勘助達は翁の家を辞した。翁も見送りの為、登山口迄彼らに 同行した。未だ空は暗く、地は尚のこと暗かつた。曙光の中には猟師と翁の 他誰の姿も見受けられなかつた。夜間外出自粛の要請は恙無く全住民へと 伝へられ、遵守されてゐるやうだつた。 くれぐれも自らの安全には注意するやうに、とのみ翁は云つた。勘助達も又 此れに頷ひただけで、其の後は何も云はずに山へと入つて行く。此れから 彼等の為せばならぬ事を思ひ、翁は一抹の祈りも込めて、勘助達が向かふ 山の方を見遣つた。 現状、獣が出没したと判然してゐるのは「長者が淵」周辺域だけなので、 勘助達は先ず其処に向かふと云ふ。此処で獣の痕跡を探し、其れから少しづつ 痕跡を辿つて行く事に依つて、其の行跡を明らかにしやうと云ふのである。 此の過程で実際の獣に遭遇する事でもあれば其の正体は即座に明らかになる だらうし、さうで無くとも痕跡の様子を具に観察しさえすれば、満足しうる 位には高ひ精度で正体を予想できるだらう。 翁は其の点につひて、あまり心配してゐなかつた。
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