四、

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さて、今まで特に必要を感じなかつた為、集落内外の地理につひては余り 多くを述べて来なかつたが、愈々其れでは埒があかなくなつてきたので 此処で説明して了おうと思ふ。 此の集落は東西に細長く伸びて居り、南側を川に塞がれてゐて、北側には 険しひ山並みが迫つて居る。集落から西へ西へと川沿いの街道を半里ほど 進んだ処に、川の渡し場が在る。此処で川を渡り、其処から更に西へ 半里程進むと、比較的大きな村に着く。此処には村役場があつて、形式上は 大木翁も此の役場所属の巡査と云ふ事になつてゐる。 村から更に南へ四里程進むと都市部に至る。其処には鎮台も置かれて居り、 此の地方の産官軍の中心として栄えてゐた。 一方集落から東へと進む道は殆ど無ひと言つて良ひ。唯だ山中へと細ひ 道が幾つも縦横無尽に伸びてゐるばかりである。此れ等は全て完全なる 山道であつて、当然街道程立派な代物では無く、猟師と山菜採りの者が 偶に通る他、全く使われてゐない道だつた。
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