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登山口には大きな石碑が建つてゐる。風化のため表面が完全に削れて
了つてゐる上、表面は苔で若干覆はれて居るので、最早何が書いてあるの
かは読み取れぬが、集落と山の境界を示すものとして人々に知られてゐる。
一般的には此の石碑より向かうが自然の領域、石碑より此方側が人間の領域、
と云ふ事になつてゐた。
而し、翁は此の一般的な考へに疑問を感じてゐた。
与作の家から此方側は、明らかに人間の領域である。其れは確かだ。
登山口から此方側も、人間の領域だらう。此れも確かだ。
だが而し、登山口から山側へと入つたら其の瞬間、即座に自分が自然の
領域へと足を踏み入れた事になるとは、どうしても信じられなかつたの
である。
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