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兎にも角にも、事の起こりは明治の初めの頃であつたさうだ。
詳しい日時は覚えておらぬ。吾輩に此の話を伝えた大木市蔵翁は、生憎昨年他界して居るので、問ひ正す事も出来ぬ。唯だ、老翁の話に「御一新」といふ語が出てきた事を思ひ出したので、明治の初めの話であるのだらうと思つたまでの事である。
何処の国であつたかは已に忘れて終つたが、大木翁は当時山間の集落で
巡査をして居つた。
唯だ、農民と少数の猟師以外住んで居らぬ人の少なき土地故、
翁の手を煩わせるやうな事態の起きる事は、極めて稀だつたさうだ。
其の折に、大木翁を始め、集落の皆が驚愕するやうな事件が起こつた。
山へ出掛けた猟師が1人、腕に傷を負つて還つて来たのである。
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