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僕は、御神輿なんて担ぎたくない。その気持ちを隠し、担ぎ棒を握る。しかし、その時、僕の頭の中に声が響いた。
『本当に、そうなのか?』
大縄跳びに踏み込む前の様な、逃げ場の無い緊張感と憂鬱が僕を包んだ。しかし、無常にもその時は訪れる。
神輿と担ぎ棒を繋ぐ太い紐を、誰かが力一杯揺らすと、その先にある巨大な鈴が大きな音を立てた。そして、更にそれを掻き消すくらいの大きな笛の音が鳴り響くと、それを合図に僕は歩き出した。
肩に棒を食い込ませ、担ぎ棒を手のひらでしっかり支える。狭い足元では、他人の足を蹴飛ばし合いながら町内を練り歩く。
しかし、今年の神輿はいつもと違った。その異変に気付いたのは、歩き始めて間もなくの事だ。
あれ? なんか、軽くないか……?
慌てて周りを見ると、偶然にも、僕より背の高い人に挟まれたらしい。前後の人が、僕より背が高い。
それは、肩に担ぎ棒を乗せる事に於いては、大きな誤算だ。なぜなら、肩が届かない。担ぎ棒が、僅かに肩から浮いている。
……全然重くない。
僕は眉間に皺を寄せると、力強く「わっしょい!」と叫んだ。もうすぐ神様が荒ぶる時間だ。それを超えれば、一旦休憩だ。
観客から歓声が飛ぶ。激励の言葉が僕達に掛けられる。僕は更に表情を険しくしてみせた。汗を掻き易い体質に感謝した。きっと美しく飛び散っている様に見えるだろう。
僕は安心した。
良かった、誰も気付いていない──。
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