神が唸る時

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再び鈴が掻き鳴らされ、笛の音が鳴り響くのを合図に、俺は神輿を担ぎ、声を荒げて練り歩いた。何度も声が掠れるほど大声を上げた。  神輿が縦横無尽に暴れ回る。鈴と笛の音に合わせて、俺は夢中で腕を振り回した。荒ぶる神の唸り声が体を支配する。  その時、俺は感じた事の無い感情に包まれた。ずっと昔に置いて来たかもしれない。そのため、子供みたいな言葉が頭に浮かんだ。  うわっ、気持ちいい……。  俺は衝動に体を委ねると、辺りを睨み付けた。道路脇の観客が見ている。さっきまでの僕は恥ずかしくて目を逸らしただろう。俺は叫んだ。 「オラ! もっと見ろ、もっと沸け! 騒げ! 荒ぶる神じゃ! わっしょい! わっしょい! そら、わっしょい!」  ふと視界の先に飛び込んで来たのは、さっきの背の高い男と、お婆ちゃんだ。二人で観に来たのだろう。  俺は一層勇ましく「わっしょい!」と叫び、全身を使って想いを伝えた。鈴が鳴り響き、神が暴れると、俺も激しく唸り声を上げ、腕を振り回す。  お前の分も俺が背負っているぞ。お婆ちゃんとお前の、無病息災の願いは、俺が神に届けてやる。  ──どうだ!? 目に焼き付けろと言わんばかりの勢いで、再び二人を見た。お前の想い、俺が背負って……。  しかし、そこには思い描いていた表情の二人は居なかった。  万灯に照らされた 二人は、手を合わせ、深々と頭を下げていた。背の高い男は、肩を震わせている。  俺はそれを見て、泣いた。  泣きながら、暴れ回ったんだ。
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