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大きな円を描く様に回るロープが体育館のフロアを打ち、その音が響く度に僕の憂鬱は膨らんでいた。
僕達は、大縄跳びの記録を作ろうとしていた。先生がカメラを構える先には、クラスメイトが必死に飛び続けている。
一人、また一人と僕の前に居た人が輪の中に飛び込んで行く。みんな、いつもと違う表情だ。しかし、僕はその輪の中には入れない。
もう逃げられない。どうなってもいいや。
しかし、僕が諦めの境地に辿り着いた時、不意に頭の中に声が響いた。
『見ているぞ』
その声は低い唸り声の様だった。しかし、なぜかその瞬間、僕の中に熱い何かが宿るのを感じたんだ。覚悟を決めて僕は駆け出すと、ロープを潜り、力強く跳び上がった。
──よし、上手く行った。
その時、僕の心の中は喜びよりも安心感で満たされていた。責任感から解放された僕は、さっきまで考えていた事が急に馬鹿らしくなり、思わず笑顔になった。
しかし、跳び始めてすぐにその気持ちは消え去った。僕の中に新たな感情が芽生えると、僕の足は重くなる。
頼む、誰か引っ掛かってくれ……。
僕の後ろに居た女子が駆け込んだ所で、ロープは止まった。跳んでいたクラスメイトの視線の先には、今にも泣き出しそうな表情の彼女が足を震わせていた。
それを見て、僕は安心した。
僕の足がまだ、ロープに触れた瞬間の感覚を覚えている。
『見たぞ、お前の隠し事……』
僕は安心した。
良かった、誰も気づいていない──。
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