16人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
鈴の音が掻き鳴らされると、神輿は狂ったように暴れ回った。神様が荒ぶる時間だ。肩から棒を外し、両の手で支え、上下に激しく揺らす。
男達の叫び声と鈴の音が響き、それはまるで神の唸り声の様に町内に響き渡った。
この時には、決まりがある。それは、決して神輿の内側に入ってはならない。
とはいえ、担ぎ棒は梯子の様な形状で、神輿の外側、梯子でいう所の長い二本を外側から担ぐ。そのため神輿の内側に入る事は、ほとんどあり得ない。
しかし、もう一つ気を付けないといけないのは、横に渡された飛び出している棒、つまりは梯子の短い方だ。梯子と違って、それが飛び出している。『井』の字の様な形状だ。その飛び出した部分が危ない。
僕は神輿を揺らした。というよりも、揺れに合わせて体を動かした。ほとんど力は入れていない。しかし、そのせいで神輿に体を引っ張られ、思わずよろけた。誰かに当たり、その誰かも、よろけた。
「うっ……」
呻き声が聞こえた。その直後、視界の下の方に、男の姿が倒れ込む。僕の後ろにいた男だ。
激しく笛の音が鳴ると、先導者や護衛隊が走り寄り、倒れた男性を引き摺りだした。
しかし、それでも神の唸りは止まらない。当然の様に激しく揺れる。
やがてもう一度鈴が鳴ると、ようやく唸りは収まり、再び神輿は進んで行った。
僕の肩は急に重くなったが、もう少しで休憩だ。肩に力を込めて行進した。
休憩所に着くと、辛そうな表情を浮かべ、大袈裟に肩で息をした。すると、誰かが肩を叩いてくれた。
「もう一息、頑張ろうな」
僕は安心した。
良かった、誰も気づいていない──。
最初のコメントを投稿しよう!