神が唸る時

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 休憩所には台が置いてあり、神輿をその上に載せる。そして時が来れば再び神輿を担いで町を練り歩く。みんなの息が整ったのを班長が確認すると、先程の位置に付いた。  しかし、鈴が鳴らない。何やら、揉めている。 先導者が大きな声を挙げて咎めている。祭りの役員も集まっている。 そこにいたのは、僕の後ろで担いで居た背の高い男だった。 「出来ます! 担がせてください! お願いします!」 「馬鹿野郎! 駄目だ!」  それは映画のワンシーンの様だった。僕は誰かの作った映像を見ている様な気持ちで、それを眺めていた。自分には理解できない感情が、背の高い男の目から涙となって溢れている。 「お願いします!」 「駄目だぁ! 何かあってみろ、この祭り自体が出来なくなるぞ!」  その言葉を聞き男は黙った。 しかし、諦めて帰るかと思いきや、その顔はゆっくりと僕の方に向けられた。 そして、僕と目が合うと、ピタっと止まった。  そのまま男は歩き出した。草履の音が近づいて来る。真っ赤に充血した目で僕を睨みながら、近づいて来る。 僕はそれを見て戦慄した。 やばい。 気付いていたのかもしれない──。
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