神が唸る時

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僕はその時、自分の体に何かが宿るのを感じた。僕の中で激しく暴れ、身を焦がす程に熱く、僕の血を煮えたぎらせる。 僕はそれを必死に抑えた。暴れたい衝動に、駄目だ、落ち着けと言い聞かす。  そして気付いた。声の主は『荒ぶる神』だ。 『お前は、また、隠し事を重ねるつもりか?』  再び僕の頭に声が響く。ドクンと心臓が脈を打つ。僕は首を振った。神様、違うんだ。僕は、隠さないといけない。もう、同じ過ちを繰り返さない為に。 『気付いているんだろう?』  再び声が頭に響くと、体がビクッと反応する。僕は、幼い頃を思い出していた。いや、思い出さざるを得なかった。それはあまりに衝撃的な光景だった。    祭りに興じる一人の男が、観客の僕の目の前で、血を流して地面に倒れ込んだ。僕は駆け寄るも「下がれ!」「危ない!」と言われ、突き放された──。  僕は、神の唸り声に首を振った。この体に迸る熱を振り払う様に。 『お前も同じだ。本能を目覚めさせろ……』  唸り声に、僕は激しく首を振った。体が熱い。ギリギリの意識で衝動に抗った。  僕はあの時、大きな声で叫んだんだ。 「お父さん!」って、必死に叫んだんだ。 それなのに、「わっしょい!」と叫ぶ声と鈴の音に掻き消され、父は邪魔な物を取り除くかの様に引き摺り出されたんだ。僕はそれを見て、膝から崩れ落ちた。  僕は嫌いだ。目の色を変えて、狂った様にはしゃぐ人達が。それは荒ぶる者じゃない。身勝手に、罪の意識さえも失う愚か者だ。それなのに……。 それなのに、体が熱い。衝動が、暴れたい本能が僕を支配する。  再び唸り声が頭に響いた。
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