16人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
万灯に照らされた神輿を支える担ぎ棒には、勇ましい表情をした男達が群がっている。普段は優しい近所のおじさん達も、今日だけは飛び交う言葉が荒っぽい。
『馬鹿になれ』なんて言葉があるが、こういう事を言うのかもしれない。人を狂わせる物は世の中に沢山あれど、『祭』がそれであるなら、世の中は平和だろう。
好きなだけ酔いしれて、好きなだけ嵌れば良い。
でも、僕はそれが肌に合わない。
普段は日が落ちると誰も歩いていない、まるで寝静まったかのような小さな田舎町。それを提灯と万灯の明かりが照らす時、その町の男達は荒ぶる者となる。
僕はまだ小学生の頃から、そういう場面にうんざりして来た。熱くなる人間を、いつも冷めた目で見て来たんだ。
とは言え、それなりに上手く取り繕って来たと思う。心の中で馬鹿にしつつも、調子だけは合わせて来た。そうやって積み重ねて来た隠し事を、今日も神輿を前にもう一段、積み上げようとしている。
憂鬱だ。いつから、こうなったんだろう。
間も無く神輿を担ぐ時間がやって来る。神輿に結ばれた鈴がチリンと鳴ると、思い出が一つよみがえる。あれはまだ、僕が小学生の頃だった──。
最初のコメントを投稿しよう!