神が唸る時

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 万灯に照らされた神輿(みこし)を支える(かつ)ぎ棒には、勇ましい表情をした男達が群がっている。普段は優しい近所のおじさん達も、今日だけは飛び交う言葉が荒っぽい。 『馬鹿になれ』なんて言葉があるが、こういう事を言うのかもしれない。人を狂わせる物は世の中に沢山あれど、『祭』がそれであるなら、世の中は平和だろう。 好きなだけ酔いしれて、好きなだけ嵌れば良い。  でも、僕はそれが肌に合わない。  普段は日が落ちると誰も歩いていない、まるで寝静まったかのような小さな田舎町。それを提灯と万灯の明かりが照らす時、その町の男達は荒ぶる者となる。 僕はまだ小学生の頃から、そういう場面にうんざりして来た。熱くなる人間を、いつも冷めた目で見て来たんだ。  とは言え、それなりに上手く取り繕って来たと思う。心の中で馬鹿にしつつも、調子だけは合わせて来た。そうやって積み重ねて来た隠し事を、今日も神輿を前にもう一段、積み上げようとしている。  憂鬱だ。いつから、こうなったんだろう。  間も無く神輿を担ぐ時間がやって来る。神輿に結ばれた鈴がチリンと鳴ると、思い出が一つよみがえる。あれはまだ、僕が小学生の頃だった──。
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