第4話 神在(かみあり)祭り

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第4話 神在(かみあり)祭り

「なんなノだ? この前の3話はなんかおかしいノだ。話がいきなりなノだ」 「ラーメンがなんで4,800円もするゾヨ。ミノならせいぜい200円だゾヨ? イセなら小どんぶりだけど50円ゾヨ」 「イズナが気づいたのはラーメンの値段だけかヨ。そんな生やさしいものじゃなかったヨ」 「いろいろおかしいノだ。なんで我らがラーメンを運ばされているノだ?」 「オウミもそこだけかヨ。これにはいろんな説があるヨ」 「ずいぶんと唐突だった……ノだ。どんな説?」 「作者が構成を間違えた説」 「それはよくあるやつなノだ」 「頭がとっちらかった説」 「それもよくあることゾヨ。キタカゼに集めさせた船とか、ケントから買ったはずのレンガとかすっとばしてるゾヨ」  そういう細かいことを気にする魔王は嫌いだゾ。 「それに、寝ぼけて違う話を書いちゃった説、気がふれた説、書いててどうでもよくなった説、それから他にもいろいろヨ」  緻密な計算の上で出したつかみ回とは考えんのかよ! 「「「それは絶対嘘なノだヨゾヨ」」」  お、お、お前らってどんだけ……俺を理解してんだよ。  ちゃんちゃん。 「で、イズモに着いたわよ、ユウさん」 「あ? ああ、説明セリフ乙である、スクナ」 「てっきり暴動とか起こっているのかと思っていたのに」 「むしろ盛り上がってるな」 「「どうして?!」」  イズモの国。オオクニの別邸・神楽殿の正面に広場がある。ここは毎年、神々の集会場(宴会場)として使われている。  場所はいつも通りなのだが、去年までと大きく違ったことがある。  食べ物も酒もふんだんに用意されていたのである。集まった神たちはそれだけで歓声を揚げた。 「今年はなんだ、いったいどうしたんだ。うまそうなものがいっぱいだぞ」 「去年なんか雑草と稲わらしか食べるものがなかったのに」 「それ、食べ物じゃないからな」 「イズモは儲かってるとは聞いたが、これほどのものが出せるとはな。100年ぐらい前に戻ったみたいだ」 「確かにすごい。酒も肴も奮発したなぁ」 「お前は酒の関係ばかりじゃないか。俺が食べたいのはあの噂に聞くラーメンだ」 「おう、もちろん俺もそれよ。あれだけ食べたら帰ろうと思っていたのだが、これなら最後までいてやってもいいな」 「偉そうに言うな。こちらは接待してもらう側だぞ」 「おや、オオクニ様のあいさつが始まるようだぞ」 「あいつの話は長いからなぁ。早く終わってくれよ」 「これを聞き終わるまでが神在(かみあり)祭りだから、ここは我慢だ」 「その後はなんだよ?」 「お祭りだろ?」 「最初からお祭りって言ってるじゃないか!」 古老の神A「本来の祭りの意味は、政(まつりごと)の意味だったのだがなぁ」 古老の神B「そう。地域ごとの問題点などを報告して、裁可を仰ぐというのがもともとの目的だったのに」 若い神A「細けぇことはいいんだよ」 若い神B「そうだそうだ、そんな面倒なことやるんだったら、俺はもう来ねぇぞ」 オオクニ「ということで、宴会に変わってしまったんだよ!!」  組織というのは、古くなると常に堕落するほうに流れるのである。特にこの世界の場合はなおさらである。 「だいたいそんなのは千年も前の話だろ?」 「神が毎年のように増えちゃって、報告会を全員がやっていたら収拾がつかないからな」 「近頃は魔王とかも出現しているしな」 「魔王どころか、人間でさえものさばってきているぞ。オオクニのやつなどイズモを人間に取られたらしいじゃないか」 「オオクニはそれでもまだ首長でいるのか。嘆かわしいことだ」 「それならお前が替わって首長をやるか?」 「それは嫌だ!!」 「「「「そうだよな、あんな面倒なこと誰だって嫌だ」」」」  オオクニの統治は、このようなやる気のない神々に支えられているのである。楽しく遊んで、食べて呑めれば良いのである。  この神があって、あの魔王たちがいるのである。 「ん? 我らもついでにディスられてるノか?」  こういう世界なので、首長オオクニの権力はまだしばらくは安泰だと思われていた。そこに小さなヒビが入る事件が起こったのである。  今日は、数百にも及ぶ数のニホン中の神が一堂に会する年に1回の大イベント・神在(かみあり)祭りである。  最初のうち(オオクニに権威があった頃)こそ、厳かな神事と報告会があったのだが、ここ100年ほどはただの宴会の場となってしまった。  特にここ最近は、酒も肴も持ち寄りが義務化されていたため、神々は不平を募らせていた。だがそれでも参加するのは、楽しいからである。  集まれば懐かしい顔にも会える。1年の間に積もり積もった話題もある。ネタを披露する場にもなる。統治をおおっぴらにサボる口実にもなる。どこかの野党が聞いたら言い訳に使いそうである。  しかも今年は、持ち寄りの義務も解除されて手ぶらて来て良いことになった。首長の財政が好転したからである。  オオクニとしてはまずそれを自慢したあとで、大事な告知を行う予定である。じつはそのことに、一抹の不安を感じていた。そのためにこんな策を弄したのである。 「あー、皆の者、食べながらでいいから聞いてくれ。今年も集まっていただき感謝する。見ての通り今年は」 「むしゃむしゃぱくぱく」 「ぐぎぐびぐびぐぐぐ」 「ぷっはー。むしゃむしゃ」 「料理も酒もたくさんあるので」 「ごごごごごごっっくんこ」 「ぷっちん、ぽよん。つるん、ぽよよよーん」 「お前はなにを食べてるんだ?」 「プッチンプリン」 「なんでそんな食べ物があるんだよ!」 「どうぞ遠慮なく食べて呑んで」 「はむはむはむ」 「今度はなんだ?」 「メイホウハム」 「ミノの名産をそのまんまかよ!」 「もぐもぐもぐもぐタイム」 「もうツッコまねぇよ!」 「くれ……って誰も聞いてないな、もう」 「どこどこどこどこ。そうですねどこどこ」 「ま、まあいい。これは返って好都合。言いにくいことを一気に言ってしまおう。タケ、どこどこのボリュームをもっと上げろ」 「ほいきた! どどここどどここどど」 「それがボリュームを上げたという表現になるのか。もうそれもいい。皆の者。今年はニホン海側で異常気象が続き、度重なる洪水で河川は氾濫、多くの死者が出た。そして地震も多数起こっておる。さらに洪水の跡地に生えた草を食べてイナゴが大発生し、蝗害も多発しておる。そのために」  と、そこで一息ついたあと、ものすごい早口でこう言った。 「難民が発生しているようである領地に帰ったらお主らはそれを受け入れる準備を進めるようにひとりでも死者が出たらその領地は増税最悪の場合は領主交代となると心得よ」  と、句読点をつけるのも忘れて言い放ったあと、普通の口調に戻してゆっくりとこう言った。 「さぁ、シメのラーメンはこちらの準備ができたら出すので、それまでもうしばらく酒と肴で歓談を続けてくれ」  はぁ!? (難民を受け入れろだと?)という怒りのどよめきがほんの一瞬起こった。だが、それもすぐ、おおっ!? という歓喜に変わった。 「ラ、ラーメンだと?!」 「おおっ、俺はそれを食べに来たんだ。イセ参りに行ったやつにどれだけ自慢されたことか」 「そうなんだ。俺もラーメンを食べた嫁から、自慢話を何度聞かされたか分からん。それが悔しくてな。何度こいつを質に入れてラーメンにしてやろうと思ったことか」 「お前の嫁はどこも引き取ってくれんと思うが」 「このあとラーメン屋に食べに行くつもりだったのだが、ここで出してくれるとはオオクニも太っ腹になったものだ」 「最近、税収が増えて儲かってるらしいな」 「くっそ。元はと言えば俺たちの金なのに」 「税金だから仕方ないだろうが」 「去年までなら払わずに済んだのに、あのなんとかって人間のせいで」 「それは払ってなかったお前が悪いと思うぞ」 「待て!? いま、オオクニ様なんて言った?」 「このあとラーメンを出すってさ。あまり食べ過ぎないようにしようぜ。あれば絶品だそうだ」 「い、いや、もっと大事なことを先に言っていたような?」 「ラーメンより大事なことなんてあるものか、さぁ、残りの料理を片づけてしまおうぜ」 「そ、そうか。みんながそう言うなら、気にすることはないか。さぁ! ラーメンだ!!!」 「「「おうっ!!」」」  これが一国の領主たちとその仲間たちである(統治はまるで関係ない神も混ざっている)。  次の日、改めてこの問題がクローズアップされるのであるが、この日だけはオオクニの策がまんまと的中し、うまいこと難民問題は先送りされたのであった。 「いや、うまくないから! それやっちゃダメなやつだから!!」  と、あとからやってきて叫んだのは、イズモの領主代行を務めるカイゼン士のユウ・シキミ、その人であった。
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