蜃気楼の涙

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 スクランブル交差点で、その人影を見つけた時、私は嬉しい気分になった。  岡本(おかもと)君だ……!  思わず笑みが零れる。  夏休み中にこんな場所で、彼に偶然逢えるなんてラッキー! 「岡本く……」   彼の許へ走り出しかけた足が、ふと止まった。  制止。  次の瞬間、くるりと踵を返した。  彼とは反対方向へと歩き出す。  ストリートを足早に歩きながら、私は思考を巡らせている。  彼の隣にはいたのだ。  さらさらの長い黒髪の可愛い()が──────   岡本君の彼女(カノジョ)?!  ううん。きっと違う。  私は最初のデートの時、確かに聞いたから。  “彼女? 今はいないよ”  じゃあ、元カノ……?!  それとも、おつきあいのある女友達(ガールフレンド)の一人?  レーコが言ってた。  岡本君、交流関係が派手だって。  同中(オナチュー)のつてで、他の高校や大学にまで交友関係があるんだって。  私はしょせん、彼の数多(あまた)いる女友達の一人。  真夏の午後、ぎらぎらと太陽が照りつける。  その灼熱の光線に焼き尽くされれればいい。  その場にうずくまった。  焼けるアスファルトに蜃気楼が揺れる。  膝の上に顔を伏せると、後から後から涙が溢れてきた。  こんなに。  こんなに苦しい想いするなら。  恋なんてするんじゃなかった……。
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