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「ぐあっ」  早朝の商店街。路地裏にあるゴミ集積所。どっさり積まれたゴミ袋の山に、俺は投げ飛ばされた。 クソっ。痛ぇ。臭ぇ。 全くどう説明すりゃあいいんだ!正直に喋ってんのに通じねぇ。 「ホントなんだって、信じてくれよ!」 必死になる俺は今、警視庁の捜査員たちにボコボコにされてる。一人はめちゃくちゃガタイがいい奴で川田って名前だ。アメフトやってたって言ったかな。デカイ自動販売機みたいな体格を抱え込むように腕組みしてこっちを見てやがる。 「諸岡君。もう何年の付き合いだ?俺たちとお前は」 「…ああ痛っ。3年半」 「3年半、そうだな。3年半だ。いい加減もうわかるだろう?正直に言わないとどうなるか…」 3年半前、俺はまさにここで合成麻薬を売ってた。そしたら“細身の女”が近寄って来て「売って欲しい」と俺に言った。よく見ると意外と綺麗な顔してたんでつい下心が出ちまった。ポケットからブツをチラつかせた瞬間、女は俺を一本背負いで地面に叩き伏せ鼻っ柱に銃を突きつけこう言った。 「警察だ!手を上げろ!」 その後紆余曲折あって情報屋としてコイツらに使われてる。 「いい加減ヤっちゃう?コイツの顔を見るのも飽きてきたわ」 パンツスタイルのスーツを着た“細身の女”のつま先がゆらゆらと立ち上がる俺のみぞおちを直撃。そしてうずくまる俺の鼻っ柱に“また”銃を突きつける。ああ3年半前と同じ。俺の人生、ちっとも変わっちゃいねぇ。 「そいつはいいアイデアだ、松本。情報屋なんて他にもいるしな。コイツ一人殺したところでなんの得もないが、まぁ世の中ちょっとはマシになるだろう」 ドヤ顔の川田。警察官の会話じゃねぇ。二人ともヤクザじゃねぇか。 「ゲホッ、ゲホッ。グゥ。待て、待てよ、落ち着け。」 「正直に、真実を言いなさい」 「真実だって!嘘でこんなでたらめ言うと思うか?!」 松本が自分のポケットから2枚の写真を取り出す。荷台が横一文字に斬り裂かれた10トントラック。バラバラに切り刻まれた無数の死体。 「これを十代の女の子がやった?」 「そう言ってるだろ!中国人と取引してたら…」 鼻っ柱の銃がしまわれる否や、路地裏の景色が“またまた”ひっくり返った。この松本って女は体型に似合わず柔道黒帯。 「ああっ!イテェ。タマがイテェ」 仰向けに叩き伏せられた俺を覗き込む松本と川田。 「タマが痛い?アンタのタマは背中に付いてんの?」 「違ぇよ。そのJKのガキに蹴られたんだよ」 「そのJKとパパ活して病気でもうつされたんだろ?」 「違ぇったら。ちゃんと聞いてくれ!一昨日、港で中国人と取引した。合成麻薬100キロと十代のガキ5人を売っ払った。無事に受け渡しが終わったと思ったら、突然刀持ったギャルに襲われたんだ」 沈黙。無表情で冷ややかな捜査員たちの顔。 「取引が終わる頃、いきなり倉庫の中をあっちこっち凄い速さの影が動き回った。不気味なんでずらかろうとしてカネに目をやったら、テーブルに広げたカネとブツの上に直接受け渡した奴らの首が転がってた」 沈黙。スズメの鳴き声が清々しく聞こえるくらいの。 「…そいつにマシンガンぶっ放した中国人たちも、俺の仲間たちもあっという間にバラバラにされた。あまりにも素早くて顔も見えなかった」 沈黙。遠くの方で聞こえる新聞屋のバイクのエンジン音。 「本当なんだ!」 「なかなかの想像力ね」 「お前は何してた?」 「弾切れしたんで、近くにあった鉄パイプで殴りかかろうとしたら返り討ちにされた」 「フン、完全にイカれてるわ」 俺に向けられた黒々とした銃の撃鉄がカチャリと鳴る。 「ホントだって!時代劇に出てくる剣豪みたいにあっという間に全員ヤりやがった。証拠のもある。ポケットのスマホを見てくれ」 川田が俺の上着のポケットをまさぐる。取り出して画面をしばらくスワイプすると松本に見せてニヤける。 「お前が亀甲縛りされてるこの画像のことか?よく撮れてるじゃないか」 「違う、それは先週の画像だ!一番新しい画像を見ろ!」 クスクスと嘲笑いながら再びスワイプした川田の動きが止まる。俺が物陰に隠れて撮影したほんの数秒の動画だ。川田と松本は二人で動画を確認し始める。 「今度のは?アンタが女王様に引っ叩かれるところ?」 「ごちゃごちゃ言ってねぇで見ろ!」 動画の内容はこうだ。 血溜まりと細切れの肉片。俺の荒い呼吸。接触不良を起こして不規則に点滅する倉庫の照明。その下で尻餅をついた血塗れの俺の仲間が手を伸ばしている。その視線の先には制服姿の少女。風でなびき顔を隠す金髪、白いシャツ、えんじ色と黒のネクタイ、短くされたスカートとそこから僅かに見える小麦色の肌。そのどれもが点々と返り血を浴びている。コイツはこのJKに命乞いしているんだ。無理もねぇ。今まさに、刀が自分に向かって振り下ろそうとされてんだからな。 顔を見合わせる二人に俺は言った。 「本当にいるんだよ。黒ギャルJKの剣豪はな…」
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