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周囲の人々も同調を示し、ハルワイ似の女性からは緊張が解けた。
「なるほど。失礼をした。私の名はヤッカ。大地の神クルトの竜巫女だ。大地の民を代表して改めて礼を言う。民を助けてくれてありがとう。感謝する」
ヤッカは丁寧に頭を下げた。その口から飛び出した大地の神クルト、大地の民という言葉に衝撃を覚える。ハルワイと同じだ。やはり彼女達は、魔神の民なのだ。
しかし相手からはすっかり敵意が消え去ってしまった。差し出された右手をトゥアンが戸惑いながらも握ろうとすると、ヤッカははっとしたように左手に切り替えた。
「すまない。こっちの方が良かったな」
どうやら彼女も、トゥアンが右の背中を怪我している事に気づいていたようだ。はにかむような笑顔を浮かべるヤッカの左手を握ると、ハルワイと手を結んだようで複雑な気分になった。
「お前はどこから来た? どうしてこんなところに?」
「むしろ教えてくれ。ここはどこなんだ? 豊穣の大地フィグネリアではないのか?」
「豊穣の大地? ここはフィグネリアには間違いないが、豊穣の大地とは初めて聞いたな。私達はこの地を遥かなる希望の大地と呼んでいる。大地の神クルト様が創り出した大地の国だ」
「大地の国……」
魔神クルトを大地の神クルトと呼び、太陽の国である豊穣の大地フィグネリアを大地の国であると言い張るそれは、やはりハルワイの主張と同じた。しかしフィグネリアから魔神の民の村や集落はことごとく消え去ってしまったはずだった。
「ならば、ハルワイという女性を知らないか? あなたと同じように巫女であり、深紅の鎧をまとって聖戦士と名乗っていたのだが」
「ハルワイ……いや、聞いた事がないな。その女が大地の神クルト様の竜巫女を名乗っていたのか。まさか神竜まで一緒だったわけではあるまい」
「それは……」
「ならば偽者に違いない。竜巫女は大地の神クルト様の化身である神竜とともにある者。神竜もおらずして竜巫女を名乗るとは、けしからんヤツめ。居場所を見つけて、即刻成敗してくれよう」
「いや、違うんだ。ハルワイはどこにいるかわからない。というよりむしろ、もう……」
ハルワイと瓜二つの顔をした相手の前で、自分の手で殺したと言うのは気が引けた。しかしヤッカは言葉にせずとも意味をくみ取ってくれたようだ。
「……天罰だな。偽者が長くはびこれるはずもない」
そう言ってヤッカは笑った。ハルワイと姿形は似ているものの、ハルワイに比べるとヤッカは良く笑う。それとも、ハルワイも仲間内ではヤッカと同じように笑顔を見せていたのだろうか。
未だ手のひらに生々しく残るハルワイを刺した感触を思い出して、トゥアンは拳を握り締めた。
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