太陽の国の消失

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太陽の国の消失

 ハルワイが医者を紹介してくれたお陰で、トゥアンはそれからの数日間を村に留まり、治療に専念する事ができた。  傷はなんとか血が止まったばかりといったところだったにも関わらず、偽兵を相手に大立ち回りを演じたお陰で再び傷口が開いてしまっていた。医者の診断によると、刺されてからほとんど時間が経っておらず、せいぜい一晩といったところらしい。するとあれから一日も経たない内に、トゥアンは神殿クルト・ダイからここまで運ばれてきた計算になる。  朝になってみると、はるか遠くに秀峰ザムバードが聳え、そこには神殿クルト・ダイの特徴的な塔の姿も確認できた。位置関係的には、太陽の国の神都ルリエーヴルと神殿クルト・ダイを結んだ中間ぐらいの距離になるだろうか。歩けば三日はかかる旅路だ。トゥアンはそれを僅かたった一日で移動したという事になる。  馬や車を使えば、あるいは可能だろうか。いや、背中の怪我を抱えたまま馬や車に揺られるのは相当の痛みがあっただろう。意識がない内に移動するという真似が可能だとは思えない。唯一可能性があるとすれば――ヤッカが乗っていたあの竜を使えばひとっ飛びでここまでたどり着く事も不可能ではないかもしれないが、竜にはヤッカしか乗れない以上、彼女が知らないのはあり得ない。  それに……そもそも魔神の民の村や集落は、そのほとんどがトゥアン達によって壊滅したたはずだった。だからこそ行き場を失った彼らは、神殿クルト・ダイへと立てこもっていたのだから。こんなフィグネリアのど真ん中に魔神の民の村が残っていようはずがない。  さらに彼らの話によると、大地の民の集落はこの村だけではなく、遥かなる希望の大地フィグネリアの至る所に存在しており、むしろ他の民族の町や村は全くないというのである。今現在、フィグネリアは大地の神クルトを崇拝する大地の民によって治められているのだという。  つまりトゥアンが属する太陽の国は、トゥアンが怪我を負って気を失っていた一晩の間に無くなってしまったどころか、誰一人としてその存在を知る者がいなくなってしまったのだ。  神殿クルト・ダイで最後の決戦があったのはつい先日の事だというのに、一体何がどうなってしまったのか。トゥアンの頭の中では疑問だけが渦巻いていた。
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