太陽の騎士

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 心臓を貫かれた衝撃でかっと見開かれたハルワイの目に、再び笑みが浮かんだ。 「ははは……そうか、そうだったのか。トゥアン、愚か者め。私には見えたぞ」 「ハルワイ!」  我に返ったトゥアンは、倒れそうになるハルワイの身体を抱き支えた。 「お前は〈終わり〉であり〈はじまり〉の宿業を背負った輪の中にいたのか。なるほど。私がお前に殺されるのも宿命という事か」 「何を言っている? もういい。しゃべるんじゃない!」 「トゥアンよ……悲しき宿業を背負ったトゥアン。私はお前に殺されて、本当に良かった。頼むぞ。今度こそ輪を抜け出すのだ。神竜を守れ。大地の民を救ってくれ!」 「ハルワイ!」  言い終えると同時に、ハルワイの身体からふっと力が抜けた。こと切れたのは明白だった。 「ハルワイ……」  トゥアンは呆然とハルワイの遺骸を見下ろしていた。今際の際にハルワイが残した幾つもの言葉が彼の頭の中を駆け巡っていた。一体なぜ、ハルワイは大地の民を救ってくれなどと言い出したのか。彼女を討ち、魔神の民を滅亡させたのは他ならぬトゥアン自身だというのに。死に瀕して錯乱状態にあったとでもいうのだろうか。  しかしそうではない証拠に、旅立ったハルワイの顔には驚く程に穏やかな表情が浮かんでいた。心なしか、安心したようにも見える。長き戦いの日々から解放されたハルワイは、残酷なほどに美しかった。  せめて――最後ぐらいは、一対一で決着をつけたかった。実力で彼女を討ち果たし、未練のないよう送り出してやりたかった。それこそがハルワイに対する一番のはなむけになろうだとうと思っていたのに。彼女は、剣を取ろうともしなかった。  自ら死を望んだハルワイは何を見たのだろう。自分に何を託したつもりなのだろう。  その時――トゥアンの背中をドンッという鈍い衝撃が襲った。振り返ると、先ほど小部屋で見た少年の姿があった。血に濡れた短剣を握った少年の唇は真っ青で、わなわなと小さく震えていた。 「お前……」  背中にあてた手がどす黒い血にぬめ光るのを見て初めて、トゥアンは自分の失態に気づいた。ハルワイを討ち取った事で気を抜いてしまい、少年の魔の手に気づく事ができなかった。 「う、うわあぁぁぁっ」  少年は叫び声を上げ、走り去っていく。  起き上がろうと試みるも、トゥアンの身体からは逆に力が抜けていくばかりだった。ぐるぐると揺れる視界の中で、トゥアンもまたハルワイの亡骸に折り重なるようにして意識を失った。
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