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甦る魔竜
カン、カン、カン……。
けたたましく鳴り響く半鐘の音に、トゥアンは目を覚ました。
頬に伝わる冷たくざらついた感触に、土の上だと気づく。身を起こそうと右手を突いて、背中に激痛が走った。そうだ、さっき少年に背中を刺されたはずだった。しかしこうして身体が動くという事は、思ったよりも深手では無かったのだろうか。
痛みを確かめるように、もう一度恐る恐る身体を起こす。どうやら建物の中ではあるようだ。たい肥のような異臭が鼻をついた。奥に積み重ねられた藁から察するに、どこかの馬小屋か畜舎といったところだろうか。
いずれにせよ神殿クルト・ダイとは似ても似つかない場所で、周囲にはハルワイの遺骸も見当たらなかった。もしかしたらあの後、誰かが助けてくれたのかもしれない。しかしだとすればどうしてこんな馬小屋に放置されていたのか。
あれからどれぐらい時間が経っているのかも定かではないが、背中の傷からの出血は止まっているようだった。右の背から右手の指先にかけてぴりぴりと痺れがあるものの、無理をしなければ身動きするのも問題はなさそうだ。
左手で壁を伝って立ち上がり、出入り口の戸へと進む。その間もカン、カン、カンと半鐘は絶えず鳴り続けていた。糞の匂いで気づかなかったが、かすかに焦げ臭い匂いがする。張り詰め、かつ慌ただしいような気配は、彼の良く見知った空気感に似通っていた。
外に出ると、トゥアンの予感は当たっていた。幾つもの粗末な建物が立ち並ぶ集落の空は舞い上がる火の粉で真っ赤に燃え、もくもくと煙が上がっていた。そこかしこから怒号や悲鳴らしき叫び声が聞こえてくる。
ここがどこの集落なのか定かではないが、戦が始まっている様子だった。
ハルワイを討ち、魔神の民は滅ぼしたはずなのにまだ争いが続いているのか。もしかすると、魔神の民の残党が押し寄せてきたのかもしれない。剣は振るえないにせよ、早く行って自分が指揮を執らなくては。
壁を伝うようにして騒ぎの中心へと向かう途中、地面に横たわった遺体を見つけた。漆黒の髪の男で、一見して魔神の民だとわかった。やはり襲ってきているのは、魔神の民の残党に違いない。それにしても、この男はどうして鎧も防具も何一つ身に着けていないのか。こんなにも軽装で集落を襲う程、魔神の民は困窮しているとでもいうのだろうか。
トゥアンは遺体に近づき、突き刺さったままの剣を引き抜いた。魔神の民を刺したという事は太陽の民の剣のはずだが、すぐに折れてしまいそうな粗末な鉄の剣だった。それでも丸腰よりはマシだろうと持って行く事にする。いつどこかから敵が襲い掛かってくるかわからない。
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