甦る魔竜

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 そうしてたどり着いた先で……トゥアンは我が目を疑った。  起こっているのは争いなどというものではなく、単なる虐殺であった。なんの武器も防具も持たない軽装の人々が、一方的に切り捨てられ、次々と命を奪われていた。  しかも殺されているのは魔神の民であり、彼らを殺しているのは太陽の民と思しき兵士達だった。男達が殺されていくその横で、家々から運び出された食料や衣服といった家財が山積みにされ、女達が紐で括られて連行されていた。中にはあられもない姿にされ、男達に弄ばれる可哀そうな女も見られた。  ようやくトゥアンは自分の思い違いに気づいた。  襲われていたのは太陽の民の村ではなく、魔神の民の村だったのだ。  しかしハルワイを討ち果たし、神殿クルト・ダイを奪還した後、魔神の民の残党狩りをしているのだとしても、あまりにもやり方が非道過ぎる。太陽の民の兵はいつの間にこんなに乱れてしまったのか。自分が意識を失ってからどれだけの時間が過ぎたというのか。  戸惑うトゥアンであったが、太陽の民達の掲げた旗を見て、事態を悟った。太陽を模した意匠は一見すると太陽神セラヴィの紋章に似てはいるものの、よく見れば別物であるのは疑う余地もなかった。彼らが身に着けている武器や鎧も、先ほどみたごろつきどもと同じような粗末な鉄のものばかりで、まるで太陽の民の兵団とは思えぬ陳腐さだった。 「さては貴様ら、太陽の民を語る偽者か!」  かっとなったトゥアンは、一団の下へと飛び出した。 「あっ、あいつはさっきの!」  先ほど女性を襲おうとしていたごろつき連中が、トゥアンに気づいて声をあげた。あんなにも品位に欠ける奴らが混じっているのは、偽兵である何よりの証明だ。 「なんだこの野郎」 「蛮族の味方するってのか」 「たった一人でどうしようって言うんだ」  殺気立った偽兵達が、トゥアンを取り囲もうとする。しかし間髪置かず、トゥアンは剣を振り下ろした。さらに横なぎに一閃。切り裂かれた二人の男が悲鳴を上げて逃げまどう。  左腕一本では骨と臓を断つまでには至らないが、戦意を喪失させるには十分だった。しかし二連撃は無理が祟ったのか、右の背中がズキリと骨に響くような痛みを発した。 「こいつ、やる気だな!」 「油断するな! こいつできるぞ!」  言葉とは裏腹に、偽兵達の間に動揺が走った。トゥアンはその隙を見逃さず、一気に距離を詰めると一人、二人と切り伏せる。背中の傷に響かぬよう、剣先が届いて傷付けさえすればそれで良い。その分迷いはなく、剣はそれ自体が意志を持つかのように次々と敵を襲って行った。 「やべえ! 逃げろ!」 「押すな! こっちに来るな!」 「邪魔するな! 殺される!」  偽兵達は蜘蛛の子を散らしたように悲鳴をあげて逃げまどい始めた。 「おい!」  トゥアンは呆然と事態を見守る魔神の民の男達に向けて叫んだ。 「何をぼけっとしている! さっさと逃げろ! 女達を助け出せ!」  魔神の民の男達も我に返り、縛られた女子供や山積みされた家財の下へと走り始める。が―― 「ぎゃっ!」  という悲鳴をあげてその内の一人が地面に転がった。 「静まれっ!」  突然響いた怒声に、一瞬にして静寂に包まれた。偽兵達も魔神の民も、金縛りにでもあったかように動きを止めてしまった。
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