ひとりぼっちにしない約束

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 桜は嫌い。  屋上へと続く階段を上りながら窓から見えた満開に咲き誇るその花を見て、つい先日に高校3年へと進級した鈴井(すずい) 紗奈(さな)は眉を寄せた。  騒音を響かせながら存在を主張するくせ、呆気なくコロリと地面に転がっているセミも。花に負けずと綺麗に色づいたのにも関わらず、あっという間に自ら舞い散っていく紅葉も。眩しい程に世界を美しい白に染め上げたのに、日差しに溶けて淀んだ色になる雪も。  横目に見るだけで胸を苦しくさせるこの感覚が嫌い。どうしても永遠の存在を夢見てしまう。切ない、儚い、そんな感情を美しいという気持ちは理解できないわけではないけれど。そう感じるのは、自分に関係ないと他人事だと割り切っている証拠で。  自分の心を震わせる強く激しいこの気持ちを、そんな綺麗な言葉で片付けてしまうのは嫌だ。けれども、その感情を表す言葉はどれだけ深く考えようが見つからず、私はこう言うのだ。"嫌い"と。  彼と会った瞬間に、その類のものと同じだと感じた。春の暖かな風に色素の薄い茶色の髪を揺らしながら、空を見上げる横顔はあまりに透明に見えて。病的とも言える程の太陽の光を知らないような白い肌をしているというのに、今まで見た誰よりも柔らかな日差しが似合っていた。だから、直感的に思った。    私は、彼が"嫌い"だ。
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