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悠平(4)
極彩色のホタルが舞っているような花火が夜空を彩っている。レジャーシートの上の遥香の左手へ僕の右手をほんの少しだけ近づけようとしたが、あと数センチのところで、どうしてもそれ以上動かない。心臓の鼓動が早くなる。飲み終わったラムネを飲んでいるふりをして息を一つ吐く。
「遅いね。迷ってるのかな?」遥香が言った。
「かもな」
「せっかくいい場所で見てるのに。もったいない」
「そのうち帰ってくるよ」
「だね」
なにか言おうとしたが、頷くことしかできなかった。
透明なマシンガンを乱射しているような音が響き、夜空を色とりどりに染める。夏の終わりを急かすかのように花火が次から次へと夜空へ咲いて消えていく。渇いた喉から声にならない声が漏れた。右手がほんの少しだけ遥香に近づき、すぐに退く。
「あのさ」
かすれた声は花火にかき消された。僕は遥香の方を向いて、もう一度、
「あのさ」
目が合った。僕は目をそらしそうになるのを必死でこらえた。
「なに?」
「また、来年も見に行きたいよなって思って」
「うん。行こうよ。来年も三人で」
そう言って笑顔を見せる遥香を見ると、本当に言いたいことは言えなかったが、もうこれでいいと思ってしまった。
花火の終了を知らせるアナウンスが流れる。孝介もそろそろ戻ってくる。「この根性なしが」と言われるに違いない。僕はゆっくりとため息をついた。
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