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塚田(4)終章
帰路につく客たちのなかに下を向いてなにかを探している様子の越田と村川を見つけ、
「なにしてんだ?」
「ああ、先生。朝山が財布をどこかに落としたっていうから探しているんですよ」
越田が額に汗をにじませながら言った。
「そうか。朝山はどこにいるんだ?」
「屋台のほうかもしれないって、そっちを探しています」
「ほんと、なにやってんだか。見つからなかったらどうするんだろう」村川が苦笑する。
「心配しなくても絶対見つかるよ。だからお前らは二人で花火の余韻に浸ってろよ」
塚田は立ち去った。財布は必ず見つかる。というよりそもそも落としてなどいないのだ。財布を落としたというのは越田と村川を二人にするためについた朝山の嘘なのだから。そして、その嘘をつくように言ったのは塚田自身である。
あたりを見渡しながら生徒を探す。見つけるたびに、「早く帰れよ」と声をかけていく。皆、「はーい」と素直に返事をするが何人が指示に従うのかはわからない。だが、それも今日くらい許してやりたい。どうかなにも問題が起きませんように、と花火が上がっていた夜空へ祈ってみたが気恥ずかしくなり、一人で小さく笑った。
「孝介」
名前を呼ばれ振り返ると悠平がいた。となりには遥香もいる。二人の間には浴衣の幼い女の子がいて母親の袖をつかんで隠れるようにこちらを見ていた。
「なんだ、お前らも来てたのか」
「休みが取れたからな」
「久しぶりだね」遥香が言った。あの時とは違い青い浴衣を着ていた
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