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「彩美ちゃんだよな。だいぶ大きくなったな」
「うん。五歳になった」
「やっぱり覚えてないよな。会ったの赤ちゃんのときだから」
「だね。もとから人見知りってのもあるけど」
「まあ、仕方ないよ」
「孝介くんは見回り? 大変だね学校の先生も」
「仕事だからな。でも、ほとんど生徒は帰ったみたいだから、そろそろ終わりだよ」
「でも、お前が教師になるなんてな」悠平が言った。
「確かに。俺が一番驚いている」
「人生なにがあるかわかんないな」
「確かに。あの時も俺が財布落としていなかったら、お前は告白出来ずじまいで遥香ちゃんと結婚していないもんな」
「だな。それは言えてる」
「びっくりしたよ。財布探していたら突然、付き合ってくださいって言われたから」
遥香の言葉に悠平が、
「顔を見たら言えそうになかったからな」
遥香の頬が緩んだ。花火の欠片みたいな星屑が広がる夜空から落ちてくる、やわらかい月明かりが、母親の袖を引っ張る眠たそうな彩美の顔を照らしている。
「どうしたの? 眠たいの?」
彩美が無言で頷く。
「そっか。じゃあ家、帰ろうか」
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