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塚田(1)
サイダーからあふれた泡のような雲が浮かんでいるのを塚田は教室の窓から眺めていた。
「先生、なに見てるんですか?」
寝ぼけたタヌキみたいな顔をした女子生徒、村川が訊ねてくる。
「空と雲」
「なんかそんな名前の小説ありませんでしたっけ?」
「罪と罰じゃね?」襟足を伸ばしている男子生徒、朝山が言う。
「戦争と平和もありえるよ」
眼鏡をかけた男子生徒、越田が朝山の方へ振り返る。
「どっちも知らない」村川が笑う。
「なんだよそれ」朝山と越田も笑った。
「お前ら、まじめに自習しろよ。わざわざ学校来てるんだから」
「してますよ。ねえ?」村川が男子二人に同意を求める。
「この夏一番の本気だしてますよ。今日の俺は」
「朝山。ならその真っ白なノートは、なんだ?」
「やっと気づいてくれましたね。わからないから訊こうと思っていたんです」
「なら、さっさと職員室に来いよ。見回りにくるまで待ってるんじゃねーよ」
「俺、受け身なんですよ」
「知らねえよ」
「まあ、いつも告白される側なんで、別に問題はないんですけどね」
「越田、こいつ殴っていいか?」
「どんな理由があろうとも体罰になるのでやめておいたほうがいいです」
「卒業したら覚えとけよ、この野郎。グーで殴るからな」塚田は拳を握った。
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