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悠平(2)
約束した時間の五分前に待ち合わせ場所であるS駅前の喫茶店前に到着すると、孝介と遥香はすでにいた。
「遅いよ」と言う遥香に「五分前だよ」とバイト代を貯めて買った腕時計を見ながら僕は言った。
「それより、どう? 浴衣」
遥香が訊いてきた。孝介がニヤニヤしながらこちらを見てくる。照れていないが、そっけなくなりすぎないように気を付けて、
「いいんじゃない。夏って感じで」
「なにそれ? もっとなにかないの?」
「まあ、それは追々」
「追々っておいおい」孝介が笑う。
頼りない三日月が夜空に浮かんでいる。小学生らしき男子数人が自転車で背後をはしゃぎながら走り抜けていく。
「飲み物だけでもここで買っていくか?」孝介が喫茶店を指さして言った。
「向こうでよくない? 私ラムネ飲みたい」
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