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【誕生日のお線香】
「尾崎、誕生日おめ―――ッッッ」
「ちげーだろッ!!メリクリメリクリ」
「いやいや、あけおめッッッ」
週末の午前二時。
当然盛り上がるであろうこの時間ですら、フロアに居るのは俺含めて数える程度とはどういう事だ?
答えは簡単だ。池袋から一駅というクソだせぇ立地と、この場末感。
俺が一見なら死んでも入らねぇ、ここはそんなチンケ極まりないクラブだ。
それでもここしか居場所が無い俺は、今日もフロアに座り込んで消毒液の味しかしない酒を舐めていた。
床に広がるゲロの残骸らしき染みが、饐えた匂いをフロアに垂れ流す。
そんなところへ飛び込んで来たのが、ラリッて口々に祝いの言葉をぶちまけるコイツらだ。
イツメンとも垢の他人とも言えるような奴らだが、俺の名前を知っているところを見ると、少なくとも知り合いではあるのだろう。
そう、俺の名前は尾崎。
ちなみに今日は全然誕生日じゃないが、今の季節は夏だからメリクリもあけおめも不正解だ。
自分の名前を憶えてくれていたのに何だが、俺はコイツらを個々に判別できない。
ちょうどチャンネル登録してないYouTuberみたいな「ああ、何か見た事ある」って、そんな感じだ。
しかし、呼び名が無いのは流石に進行に差し支える。取り合えずの便宜上という事で、タツヤ、リョウ、アツシとでも呼んでおこうか。
誰が誰かはまぁ、どうでもいい。だって彼らは、俺とハナの物語に重要な役割を果たす訳では無いからだ。
――いや、違うな。
コイツらがハナをここに連れ込んでおっぱじめなければ、俺とハナは他人同士で終われたかもしれないのだ。
「尾崎、これお祝い!!」
タツヤによって床に転がされたのは、餓死寸前の少年を思わせるガリガリに乾いたガキだった。
それが本当に栄養不良によるものかは知った事ではないが、骨ばった貧相な体躯が足元で小さく震えている。
「なにこれ、犯罪?」
俺が反応した事に気をよくしたアツシが、混ぜ物入りの煙を吐きながら捲し立てる。「犯罪じゃねーよッ。いや、犯罪かもしんねーけどッッ。プレゼント、プレゼントッ!!」
「プレゼント?は?なんでだよ」
「分かんねーよ。まぁ、このホモガキが物欲しそうにしてたからよ、みんなでちんぽ恵んでやる事にしたんだよ」
「それって、俺へのプレゼントじゃなくて、このガキに対するプレゼントにならねーか?」
我ながらクソみたいな会話にウンザリする。
が、既にゴリゴリにラリっているリョウは、ガキのスボンと下着を剥ぎ取るのに夢中だ。
「――何?俺がヤルんじゃないの?」
「尾崎、ヤリてーの?」
「いや...いいわ。プレゼントはリョウにやるよ」
「尾崎、いい奴だなッ」
もはや会話は支離滅裂だが、今はガキの尻の方が滅裂にされつつある。
...上手い事言ってしまった。
「よし!オレがブチ込むのを、そこでシコって見てるがいい!」
俺に向かって威勢よく宣言したリョウは、ガキのケツの穴に酒をぶちまけると、ガチガチに勃起したチンコを容赦なく捻じ込んだ。
初めて聞いたガキの声は、フロアを劈くような悲鳴だった。
規格外のブツを飲み込んだケツ穴は無残に弾け、鮮血が床に飛沫をまき散らす。
ガキは最初にヒュッと喉から空気を漏らすと、その後は悲痛な叫びを絶え間なく上げ続けた。
「ぅアアッ、やめて...やめてやめてやめて―――ッ」
フロアに居た他の客達が一瞬何事かと振り返るが、直ぐに興味を失って元の場所へと視線を戻す。
全くゴミばっかりだな。俺達を含め――。
泣き喚くガキを背後から犯しながら、リョウはなかなかイケないようだ。潤滑油代わりのガキの血液が、激しく打つ腰の動きに合わせてバチュバチュと下品なリズムを垂れ流す。
「あぁーすっげ気持ちいのに、キマり過ぎてぜんっぜんイケねーわッ」
尚も腰を振り続けるリョウに「イケねーんなら代われよッ」とアツシがいい加減文句を言いだした。
その間も、ガキは喉を枯らしながら叫ぶ事を止めない。
「うるっっせんだよッ。音が聴こえねーだろッ」
DJブースなんか見向きもしないタツヤが急にキレて、四つん這いで掘られるガキの前に立ちはだかる。そして、喚くガキの前髪を引っ掴んで顔を上げさせると、引きずり出した自身のチンコを無理やり口の中に突っ込んだ。
「ふぐッッ」
喉奥を擦られて、ガキが涙ながらに嗚咽する。
苦しさで逃れようとするその顔を両手で引っ掴み、タツヤは執拗に腰を打ち付けた。
「そういや、タツヤのちんぽってピアスぶら下がってなかったっけ?」
順番待ちのアツシが、前と後ろからガン掘りされるガキを見ながら呟く。
そういやそうだった。
アツシの鬼頭に嵌められたピアスは、確か俺が紹介したピアッサーが付けたものだ。
――あれで、喉抉られたら血の海だな。
思ったそばから、ガキがゴボリと血だかゲロだか分かんねー液体を噴射した。
イラマを中断されたタツヤが、怒り狂ってガキのこめかみをグー殴りつける。
「なんか、騒がしいな...」
目の前で繰り広げられる茶番にウンザリしながら呟く俺に、「尾崎はクールだよね」と言ってアツシが電子タバコを投げて寄越した。
「安モン入れてんじゃねーよ」
受け取って吸い込むと、頭がクラクラする。
暇だったから何時間も一人で飲んでいたのも相まって、俺は一発でノックアウトされた。
急速回転で風景が周り、フロアに流れるドラムンベースは大音量に成り代わる。
ほんの数秒だと感じた俺の意識は、数分トンでいたらしい。
茶番は更に狂気の様相を見せている。
ガキは床に仰向けに転がされ、四方を羽交い絞めにされていた。
それが何週目なのか知った事ではないが、口とケツにブチ込まれながら左右の手夫々に握らされている。
今や、タツヤ、リョウ、アツシだけでない他の輩も群がってきているようだ。
場末のクソみたいなクラブに居るのは、全く暇な奴らばっかりらしい。
「おッ!尾崎起きたかよ」
ガキの顔目掛けてたっぷり射精し終えたアツシが、やけに爽やかな笑顔を向ける。
「中、出さねーの?」
「オレ、潔癖症なんだよ」
「ワケ分かんねーよ」
酒と薬で頭ん中に薄い膜が貼られたみたいだ。
もう全部めんどくせーから早く帰って寝たい。そんな俺の心境を全く慮る事はなく、「こっち来いよ」とアツシが手を引いてと立たせようとする。
「なんだよ、潔癖症じゃないのかよ」
「尾崎は親友だろ?」
「そうだっけ」
「そうだよ。その証拠に誕生日会だ!」
まだ、そのネタ続いてたんか...。
仕方なくゆるゆると立ち上がると、リョウに数本の細長い線香を渡された。
「...何か供養でもすんの?」
「ちげーって!コンビニにこれしか無かったんだって。ローソク代わり」
「は?」
リョウが指さす先を見ると、仰向けで羽交い絞めにされたままのガキが、痛々しくチンコをおっ勃てていた。
「お前ら、ガキに何か盛った?」
「仕方なくな。強姦してもコイツ全然勃たないからさー」
「強姦だから勃たないじゃないか?」
「嗜好の問題だな」
言って、リョウが線香の束を押し付けて来た。
「これ...どうすんだよ」
「だから、ローソク代わりだって。ガキのちんぽに刺して祝おうぜ!」
――だめだ。コイツらアホ過ぎんだろ。
もう全部放って帰りたかったが、フロアの興奮がそれを許さなかった。
俺は諦めて深くため息をつき、ガキの前に歩み出る。
全裸でチンポをモロだしにされた子供は戦闘能力ゼロだ。
涙と血とゲロでぐちゃぐちゃになった顔を見下ろすと、ガキは枯渇したHPをふり絞るようにして目を開けた。
「お前、片方見えねーの?」
ガキの...えーと俺から見てだから左か。左目は、白くドロリと濁って光を宿していなかった。
「...見えてない。耳も...右が聞こえない」
「そりゃ難儀だな」
「そう...なのかな?」
この状況で自分の人生の困難を理解していないガキの様子に、俺はなんだか笑ってしまった。
「僕...何か変な事言った?」
「言ってねぇよ。むしろお前が正しい」
「......」
会得のいかない顔のガキに、俺は気が付くと問いていた。
「お前、名前なんてーの?」
「...ハナ」
「男だろ?呼び名か何かか?」
「わかんない。気が付いたらそう呼ばれてた。オニーサンは、何ていうの?」
「俺か?」
ハナとかいうガキと俺の訳の分からない会話に、周りが痺れを切らし始める。
「早くッ、余興始めようぜッ」「はぴばッはぴばッッ!!」「尾崎ッ、早くしろよッッ」
アホ共が口々に声を上げる。
が、雑音は雑音でしかなく、俺は何だかシンとした空間にハナと二人で取り残された様な変な錯覚を覚えた。
「聞いたろ?俺の名前は尾崎だ」
「オザキ」
ゲロと精液にまみれたハナの口から零れた「オザキ」は、何か全く別の物質として発音されたみたいな気がした。それは俺の存在を危うくし、魂をハナの手で握られたかのように俺の退路をブツリと断つ。
こんな、丸腰のガキ相手に俺は何を畏れているのだろう。まだ薬が残ってるせいだろうか、何だかセンチメンタルな気分だ。
仰向けにされて四肢を拘束されたままのハナの前に、俺は静にしゃがみ込む。
「線香、多分すげぇ痛いぞ」
「...そうだろうね」
「中で折れたら、チンコ使い物になんなくなるぞ」
「...知ってる」
「ハナは痛いのが好きなのか?」
「好きじゃないよ。けど――」
「けど?」
「オザキは好きだよ」
唐突なハナの告白に、思わずぶはっと吹き出す。
「なんだよ。一目惚れかよ」
「違うよ」
「どっかで会った事あったっけ?」
「そうじゃなくて、どっちかって言うと――」
ハナは見えない左目で、静かに俺を見上げる。
「初恋だ」
「そうか...」
握らされた線香の束から一本を引き抜き、ライターで火を点ける。
炎を吹き消すと、赤く色づいた先から煙が立ち込め、フロアから歓声が上がった。
「お前らどけ」
ハナを拘束している奴らを、俺は足蹴にする。
「コイツ、ぜってー暴れるぜ」
リョウが文句を言うが、俺の目は既にハナしか見ていなかった。
「大丈夫だ」
言うと、目の前のハナは小さく頷いた。
しぶしぶ引き下がる輩を後目に、俺は煙を上げる線香を構える様にして持ち直す。
薬を盛られたハナのペニスは不自然にいきり立ち、カウパーをトロトロと滴らせていた。もともと用意なんか無かったが、潤滑油の必要も無さそうだ。
俺は一度大きく息を吸い込むと「いくぞ」とハナの目を見て、線香の先をハナの尿道へと静かに差し込んだ。
「んんッ!!」
ハナの腰が反り返り、全身が小さく痙攣する。
輩どもから拍手が湧き、「もっとやれ」だの「とっとと入れろ」だのと怒号が飛び交う。
まったく、どうしようも無い奴らばっかりだ。俺とハナを含めて。
「ハナ」
息を荒げながら涙と鼻水を垂らすその顔を、線香を持つのと反対の手で優しく包み込む。
「折れるから動くな。大丈夫だ」
「オザキ...」
ハナがもう一度頷くのを見届けて、十五センチ程もある線香をズブズブと刺し入れていく。
「あっ..ああっ....」
入れられながら漏らすハナの声に、俺は勃起した。
初恋か――。
笑ってしまうが、こんなに興奮したのは俺も初めてかもしれない。
「オザキ...あっ...オザ...キ...」
浅い呼吸の隙間に名前を呼ばれ、今すぐ手を止めて自身をシゴきたい衝動を必死に堪える。
ハナの尿道に線香の大半部分が飲み込まれ、残った先が煙を細く引く。
それは、まんまと誕生日ケーキにおっ立てられたローソクみたいで、俺は情けなく笑うしかなかった。
周りでは、誕生日のお約束の歌が豚の悲鳴みたいな声で合唱される。
「はっぴーばーすでー、でぃあ、おっざきーーーッッッ」
爆弾が落ちればいい。
日本に――、東京に――、池袋に――、このクラブの真上に――。
そして、この狂気じみたパーティと全ての糞とハナの初恋を全部吹っ飛ばして粉々にして――。
「オザキ」
チルアウトの曲と共に溢れる俺の破滅的な思考が、プラスチックみたいなハナの声で中断される。
「愛してるよ」
「俺もだ、ハナ」
赤く火を点す線香の先を、指で摘まみあげる。
肉の焼ける匂いと痛いくらいの勃起を感じながら、俺はハナに刺さった線香をいっきに引き抜いた。
瞬間、栓を抜かれるのを待っていたかの様にハナは激しく射精する。
顔に浴びた精液を舌で舐めとりながら、俺はハナに優しく口づけをした。
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